第23話 尾行作戦の結果
「それじゃあ、行ってきまーす」
「行ってらっしゃい。何かあったらすぐに連絡するんだよ。もし連れ去られそうになったら、交番なりに駆け込むこと、いい?」
「分かってるって、もうお姉ちゃんは心配し過ぎなんだから」
「悠姫が楽観的過ぎるの!」
「はいはい、ちゃんと身の危険を感じた時はそれ相応の対応するから安心して。それじゃ」
後ろ手を振りながら、悠姫ちゃんは出かけて行く。
ガチャリと扉が閉まり、室内に静寂が訪れた途端、俺と千陽は頷き合い、早速準備を開始する。
用意していた変装用の衣類に着替え、サングラスなどの小物もしっかりと装着。
「おっしゃ、準備完了」
「行くよ元気」
「おう」
俺達は玄関を出て、悠姫ちゃんが向かったであろう駅へと駆け足で向かって行く。
しばらくして、すぐさま駅へ歩く悠姫ちゃんに追いつくことが出来た。
ここから、絶妙な距離感を保ちながら、悠姫ちゃんにバレないよう尾行を開始。
「なんか、いけないようなことしてるみたいで気が引けるな」
「何言ってるの! これは、悠姫の人生を左右するかもしれないのよ!」
「それはそうなんだけど、やっぱり悠姫ちゃんももう大学生なんだし、しっかりした大人なんだからさ」
「大学生はまだ子供よ!」
悠姫ちゃんを妹として心配しているのは、姉妹としてとてもいいことだと思うけど、正直、過保護過ぎるような気もする。
溺愛しているのは分かるけど、血縁は血縁を呼ぶのだろうか?
「あっ、ほら、悠姫が駅に入って行った。早く行くよ」
「お、おう」
千陽に促され、俺達も駅の改札を通ってホームへと向かって行く。
悠姫ちゃんとは反対側の階段から高架のホームへと上がり、電車が来るまで悠姫ちゃんの様子を通目で見ながらしばし身を隠す。
スマホを弄っている悠姫ちゃんの姿をじぃっと凝視している千陽を見て、俺はふと少し前のことを思い出してしまい、ふっと笑い声を零してしまう。
「なっ、何よ?」
「いやっ、ちょっと昔のことを思い出してただけ。同棲する前、二人でこうして外に出ても、千陽全然感情を表に出してくれなかったからさ」
それは、俺と千陽が同棲する前までの出来事。
◇◇◇
いつも待ち合わせをして千陽とあって世間話をしていても、全然感情を出してくれなかったのだ。
「今日も寒いね。千陽は寒くない?」
「平気」
「……うぅ、寒いな。特に手が冷たい」
「そんなに寒いなら、コンビニでカイロでも買う?」
「……いや、そこまでじゃないから大丈夫だよ」
本当は、遠回しに手を繋ぎたかっただけなんだけど、千陽はあらゆるフラブをへし折っていたからな。
「あっ」
「ん? どうしたの?」
「ほら見て、あのビルに貼られてる映画の広告」
俺が楽しみにしてたヤツだ!
「あぁ、あれ。友達と見に行ったけど、とんだ駄作だったわ。お金を返して欲しいレベルよ」
「そ、そっか……」
千陽に一緒に観に行こうと誘おうとしたけど、言わなくてよかったぁ!
◇◇◇
「懐かしいなぁ、外面千陽」
「ちょ、変なあだ名付けないでよ」
「だって、まさかこんなに感受性豊かな子だとは思ってもみなかったし」
「そ、それは……一種の照れ隠しと言いますか……」
「あれが照れ隠しだったんだな」
俺じゃなかったら、この子、好きじゃないのかなと勘違いしていたところだぞ?
そんなことを心の中で思っていると、電車がホームに入線してきた。
「ほら、昔の話はいいから、とっとと電車に乗るよ」
「へいへい」
千陽に腕を引かれて、俺たちは悠姫ちゃんと同じ電車の別車両に乗車する。
扉付近に二人並んで立ったまま乗車して、悠姫ちゃんが視認できる位置を陣取った。
車内にいる間も、俺たちはお互いの手を繋いだまま悠姫ちゃんが待ち合わせしているという駅まで向かって行った。
終点の巨大ターミナル駅に到着して、電車内にいた人たちが全員ホームへと降りていく。
その波に沿って、俺と千陽も電車から下車した。
「悠姫はどこ?」
千陽が背伸びして悠姫ちゃんの姿を見ようとするものの、人が多くて見つけることが出来ない。
「こっち、来て」
俺は見えていたので、悠姫ちゃんが歩いて行った方へと人混みをかき分けながら進んでいく。
ターミナル駅なだけあり、階段一つ降り間違えるだけで、目的地とは違う改札口へと向かってしまうという迷路のような駅を、悠姫ちゃんは迷う様子もなく手馴れた様子でぐんぐん歩いて行ってしまう。
「悠姫ちゃんって本当にこっちに来るの初めてなの? 凄い慣れた様子なんだけど」
「あの子、方向感覚だけは抜群にいいのよ」
正直、子供の頃からこちらに住んでいる俺でも迷うことがあるというのに、凄い空間認識能力だ。
悠姫ちゃんの後を追っていくと、一番人で活気がある中央改札へと出る。
改札口を出ていく悠姫ちゃんを追って、俺達もすぐさま改札口を出ようとした時。
ピンポーン。
『チャージしてください』
残金が少なかったらしく、千陽が改札で足止めになってしまう。
「何やってんだよ!」
「ごめん元気、私のことはいいから悠姫の後を追ってて!」
「そういうわけにもいかねぇだろ」
「いいから! お願い!」
「ったく、後で連絡しろよ」
俺は千陽が精算機へ向かって行くのを見送ってから、すぐさま悠姫ちゃんの後を追うことに。
が、しかし……。
「あれ……どこいった?」
千陽に気を取られて視線を外している間に、悠姫ちゃんの姿を見失ってしまう。
辺りを見る限り、人、人、人の数。
これでは、悠姫ちゃんを見つけるのも至難の業だ。
かといって、むやみやらたらに探し回るのも悪手である。
「うぅ……どうするか……」
「こんなところで何してるんですか元気さん」
すると突如、後ろから冷たい声を掛けられ、俺はビクっと身体を震わせてしまう。
恐る恐る振り向くと、そこにはにこりと笑みを浮かべた悠姫ちゃんが立っていた。
「ゆ、悠姫ちゃん⁉」
「奇遇ですね。さっき家で見送ってくれたぶりですかー? にしても、どうしてこんなところにいるんですかねぇー」
問い詰めて来る悠姫ちゃんの目が笑っていない。
ヤバいこれ、完全に尾行していたのを気づかれていたパターンだ。
「えっと……ちょっと友人に呼び出されたんだよ」
「ふぅーん、そうなんですか。まあ、そんなこともありますよねぇー」
悠姫ちゃんの声音が怖い。
俺が冷や汗が止まらなくなってきた時――
「元気! 悠姫はどうしたの⁉」
タイミング悪く、千陽が俺の元へと戻ってきてしまった。
そこで、悠姫ちゃんが千陽を見据える。
千陽はピタっとその場で固まってしまう。
「あれぇーどうしてお姉ちゃんまでこんなところにいるのー? ねぇ、元気さん?」
「……」
「……」
何も言えなくなってしまう二人。
そして――
「すいませんでした」
「すいませんでした」
俺たち二人は、悠姫ちゃんに向かって深々と頭を下げるのであった。
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