第19話 紹介された相手

 女子トークに花を咲かせてから二時間近く経過しただろうか。

 お酒もまわり、私の機嫌も上々だった。

 ポワポワと身体が温まっており、心地の良い酔いが私を支配する。

 そんな上機嫌の私は、愛先輩が席を外している間に、元気君のことを考えていた。


「元気君も今頃、上本君達と楽しく飲んでるかな?」


 私と同棲を始めたことを報告しに行くと言っていたけど、ちゃんと言うことが出来ただろうか?


 そんなことを心配していると、席を外していた愛先輩が戻ってくる。


「お待たせー! 向こうもオッケーらしいから、お店でて会いに行こうか」

「はい、分かりました!」


 私たちは荷物をまとめて、お会計を済ませてお店を出た。


「あの……ちなみに案先輩が会わせたい人って、いったいどんな人なんですか?」

「えっとね、一言で言っちゃえば社畜?」

「しゃ、社畜なんですか⁉」


 それだけ聞くと、凄い仕事の出来るキャリアマンなのだろうかと、いろいろ想像を働かせてしまう。


「まっ、どういう繋がりかは、あってから話すよ」


 そう言われてしまったら、私は愛先輩の後を追ってついていくことしか出来ない。

 十分ほど他愛のない会話をしながら歩いていると、とある高層ビルの前にたどり着く。

 その入り口付近にある柱の前で、愛さんは足を止める。


「ここで待ち合わせだから、ちょっと待ってようか」

「は、はい……」


 恐らく、このビルが愛先輩が私に会わせたいという方のオフィスなのだろう。

 ビルを見上げれば、まだオフィスと思われる階層には、点々と明かりが灯っている。

 社畜さんと言っていたから、きっと今も仕事に追われながら遅くまで頑張っているのだろう。

 そう思うと、なんだか仕事を定時に切り上げて、こうして飲みに来ている私たちが申し訳ない気持ちになってくる。


「おっ、そろそろ降りて来るみたい」


 愛さんがスマホの画面を見つめながら私に言ってくる。

 一体、どんな人なんだろうか?

 緊張と期待の両方を抱きながら待っていると、ビルの出入り口から、三人組の男性が降りてくるところだった。


「あっ、いたいた! おーい、大雅たいがー!」


 愛先輩が大雅と呼んだ人物は、爽やかな笑顔を浮かべながら、もう二人の男性を引き連れてこちらへとやってくる。

 両隣にいる男性に視線を向けると――


「えっ……」


 私は思わず、あっけにとられた声を上げてしまう。


 なぜならそこにいたのは、紛れもない元気と谷町君だったのだから。

 ってことは……真ん中にいる男性は上本さんってこと⁉

 向こうも私の存在に気づいたらしく、驚いた表情を浮かべている。

 そして、愛先輩も元気君がいることに気が付き、目を見開いた。


「あれっ!? 鶴橋じゃん! アンタなんで大雅と一緒にいるわけ?」

「い、今里いまさと先輩⁉ どうしてこんなところに?」

「私はほら、可愛い後輩に私の婚約者を紹介しようと思って」

「……へっ?」


 私は愛さんの言葉に、素っ頓狂な声を上げてしまう。


「愛さん……今、なんて……?」

「え? だから!」


 愛先輩は爽やか笑顔が素敵な男性の腕に絡みつくと、幸せそうな笑みをこぼしながら言い放つ。


「私、ここにいる彼と結婚するの!」


 愛先輩から放たれた衝撃的な言葉に対して、私と元気は――


「えぇぇぇぇーーーー⁉⁉⁉」

「えぇぇぇぇーーーー⁉⁉⁉」


 見事にはハモりながら驚愕の声を上げ、酔いが一気にさめてしまうのであった。

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