第16話 今週末の予定
「ただいまー」
「あっ、お帰りー元気!」
飲みから帰宅すると、千陽がモコモコの寝間着姿で出迎えてくれる。
俺は上がり框で立ち止まった千陽の肩へと手を回して、お帰りのキスを交わした。
同棲生活が始まる前までの俺に、今の千陽とのイチャつきっぷりを見せたら、びっくりするだろうな。
それほどに、俺と千陽の関係は同棲を始めてから大きく変化した。
キスを終えて、お互いに微笑み合うと、すっと千陽が一歩後ろに後ずさる。
千陽を追うようにして、俺も靴を脱ぎ、上がり框へと登り、さらに至近距離になった彼女の腰へ手を回す。
そして、どちらからでもなく当然のようにもう一度唇を合わせた。
「えへへっ……お帰り」
「ただいま。お留守番ありがとう。寂しい思いさせちゃってごめんね」
「ううん、平気だよ」
お互いの額を合わせて、吐息が掛かりそうな距離で見つめ合いながら交わす会話は、何ともこそばゆい。
「お風呂入ってきたら? 明日も朝早いんだし」
「うん、それじゃあお言葉に甘えてそうさせてもらおうかな」
「それじゃあ、私も寝る準備整えて待ってるね」
「分かった」
帰宅してから三度目のキスをしてから、俺たちはようやく行動に移る。
周りに見られていたら熱々カップルすぎて、頭が痛くなってくるような光景だろうけど、二人だけの空間であれば関係なし。
何でもありのしゅきしゅきプレイが可能なのだ。
俺はそのまま脱衣所へと向かい、ささっと風呂を済ませてしまうことにする。
「ねぇ元気」
すると、俺がインナーを脱いで上裸になったところで、千陽が脱衣所にやってきて声を掛けてきた。
「ん、どうしたんだ?」
俺が首を傾げて尋ねると、千陽は人差し指を吐き合わせながら、恐る恐る口を開いた。
「あのね、週末の夜なんだけど、私も先輩と飲みに行くことになっちゃって……。だから、申し訳ないんだけど……」
「分かった。千陽も付き合いがあるもんな。楽しんでおいで」
「えっ……い、いいの?」
「もちろん。俺だって、今日も夜いなかったわけだし、同棲したからって交友関係を蔑ろにするのはよくないから。ちゃんとその先輩と色々積もる話もあるだろうしね」
いくら同棲生活を始めたとはいえ、お互いの交友関係を断ってしまったら、それこそ束縛になってしまう。
俺も千陽の幸せを望んでいる以上、友達関係にまでとやかく言うほど技量の狭い男ではないのだ。
「元気……ありがと!」
「どういたしまして。話ってのはそれだけ?」
「うん!」
「そっか。じゃあ俺は、お風呂入ってくるね」
「いってらっしゃい」
千陽が踵を返して、満足そうに脱衣所を出ていきかけたところで、ピタリと足を止め、顔だけこちらへと向けてきた。
心なしか、頬が赤く染まっているような気がする。
「あのね元気、それからもう一つお願いがあるんだけど……」
「ん、何?」
俺が優しく問いかけると、千陽はさらに顔を真っ赤にしながらポソポソとつぶやいた。
「今日も夜遅いけど……いっぱいイチャイチャしようね」
「えっ……お、おう」
「それじゃ私、ベッドで待ってるから」
千陽は恥ずかしさからか、逃げるようにして脱衣所を後にしてしまう。
要約すると、明日も仕事で今日も夜遅くて寝る時間減っちゃうけど、夜の営みをしたいですということ。
あれから、ほぼ毎日のように育んでいるので、俺もそのつもりだったけれど、どうやら今日は千陽も欲求不満ということらしい。
全く、本当に可愛らしい彼女である。
思わず自然と笑みがこぼれてしまいつつ、出来るだけ早く千陽の期待にこたえられるように、俺は急いで風呂を済ませるのであった。
◇◇◇
風呂を済ませて、寝室で待っているであろう千陽の元へと向かおうとした時、スマホのバイブレーションがブーッ、ブーッと鳴り響いた。
画面を見れば、電話が来ており、怜人からと書かれている。
俺は着信ボタンを押して、スマホを耳元へと近づけた。
「もしもし?」
『おう元気。悪いな営み中に』
「そう思うなら電話かけて来るなよ」
『えっ……もしかしてマジで致してた?』
「んなわけねぇだろ。だったら電話でねぇっつーの」
『だよな! というか、普通に夜遅くにすまん』
「別にいいよ。それで、どうしたんだ電話なんて掛けてきて」
怜人からこうして電話が掛かってくることなどほとんどないので、何か先ほどの居酒屋で何か重要なことを言い忘れでもしたのだろうか?
『あぁ、さっき話した上本との飲みの件なんだけど、急で申し訳ないんだけど、今週の金曜日って空いてたりするか?』
「ほんとに急だな」
『悪い、上本に予定確認してみたら、今月はその日しか空いてないらしくて』
上本は土日休みではない仕事のため、中々都合が付きにくいのだ。
「まあ、その日は丁度千陽も夜予定あるって言ってたし、別に構わないぞ」
『本当か? 助かるわ。それじゃあ店のセッティングとかはこっちであとはしておくから、詳細は後で送るな! ちゃんと上本に報告するんだぞ』
「分かってるってば」
『ってことでまあ、今週末よろしく! おやすみ』
「おう、じゃなあ」
こうして、上本と会う日を決め、怜人との通話を手短に終えた。
もう少し先になるかと思ってたけど、意外と早くなっちまったな。
そんなことを思いつつ、俺はスマホを手に持ったまま寝室へと向かった。
寝室へ向かうと、薄暗い豆電球の光だけが照らす室内で、千陽が布団にくるまりながら、スマホをポチポチといじっていた。
「お待たせ」
「うんー」
俺がベッドに入ろうとすると、千陽はスマホを閉じて、近くにある充電ケーブルへと差し込んだ。
隣のケーブルに俺もスマホを差し込んでから、お互いベッドで横になる。
「さっき誰かと電話でもしてた?」
「あぁ、怜人とちょっとだけ。今週末空いてるかって聞かれた」
「また飲みに行くの?」
「まあな。でも今回のメインは怜人じゃなくて、上本が久しぶりに会うんだよ」
「上本君って確か、元気と仲がいいって言ってたもう一人の同級生だよね」
「そうそう。それでまあ、俺たちの事ちゃんと言ってなかったから報告しようと思って」
「なるほどね! 友達に近況報告は大事だもんね」
千陽も納得してくれたらしく、何度も首を縦に振っている。
「ってことで、週末は俺も夜遅くなるから、帰ってきた方から順に寝支度整えるってことで」
「分かったー」
「んじゃ早速……ヤりますか」
話しが途切れたところで、俺は千陽に覆いかぶさるようにして四つん這いになる。
「えぇ⁉ そんないきなり⁉」
「だって明日も朝早いんだぞ」
「それはそうだけど、もうちょっと雰囲気とかあってもいいじゃん」
そう拗ねる千陽だが、俺が彼女の胸元に触れた途端、可愛らしい声を上げて、身体をもじもじとさせしまう。
「その調子じゃ、いつシても大丈夫そうだな」
「もう……バカ」
「バカでけっこう」
こうして俺は、今日も可愛い可愛い彼女の身体を、美味しく頂くのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。