第15話 お世話になった先輩への報告

「それでね、それでね! 私がちょっと寂しそうにすると、元気がすぐに私の元に寄ってきてくれてぎゅって抱き締めてくれたの!!」


 私は、同棲生活を始めてからの元気とのラブラブっぷりをこれでもかと親友で先日までルームシェアをしていた森ノ宮佳穂もりのみやかほに話していた。


「あーはいはい、それはよかったね」


 一方で佳穂は、全く興味のない様子で、漫画を読みながら流し聞きしていた。


「ちょっと、どうして聞いてくれないの⁉」

「あのさー話聞く身にもなってみてよ。どうして私が千陽と鶴橋君の惚気話を永遠に聞かされなきゃならないわけ?」

「違うよ! これは、幸せをおすそ分けしてあげてるの!」

「それが惚気っていうんだよなぁー」


 佳穂は呆れたようにため息を吐きつつ、すっと漫画から視線を外して画面越しに私を見据えて来る。


「ってかさ、愛先輩には報告したの? 同棲始めたこと」

「うっ……そ、それは……」

「してないんだね」


 佳穂の言う愛先輩とは、私の大学の先輩であり、会社の一つ上の先輩。

 部署が違うので、普段から頻繁に会うことはないけど、鶴橋君と付き合い始めてから、ずっと面倒をよく見てくれていたのだ。


「愛先輩って、天真爛漫って感じだから、中々予定とか聞くタイミングを逃しちゃって……」

「そう言ってあんた後回しにしてるだけじゃない」

「うっ……」

「はぁ……せっかくお世話になった先輩に伝えないとは、千陽は薄情だねぇ」

「わ、分かったってば! 言えばいいんでしょ、言えば!」

「じゃあ、今日中に連絡して返信貰って、会う予定を合わせること。そんで、私にそのスクショを送ること。いい?」

「私そこまで信用ないの⁉」


 佳穂の過保護っぷりに驚いていると、彼女はジト目を向けてきた。


「ほら、いいからとっとと行動する」

「はぁい……」


 半ば強制的に、私は愛さんへメッセージを送る。


『愛先輩ご無沙汰してます。今度久々にご飯でも行きませんか?』


 私が当たり障りのないメッセージを送ると、すぐに既読が付く。

 そして、三十秒も経たないうちにメッセージが返ってくる。


『千陽久しぶりー! 最近会社で全然合わないけど元気してたー? 何なら、元気君も元気してるー?』

『はい、まあその辺りの話も含めてご飯でも行きましょ』

『いいよー! 私も色々と千陽に話したいことあるから!』


 そこから、やり取りを何往復か交わして、ご飯の約束を取り付けた。


「愛先輩とご飯食べる約束取り付けたよ」

『んっ……スクショも確認した。ちゃんと言いなさいよ』

「わ、分かってるってばぁ」


 ここまでセッティングして、言わないほど私も野暮ではない。

 佳穂に念を押され、私は愛先輩と一緒にご飯へ行くことになった。

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