第10話 友人からのアドバイスPART2

 千陽は、部屋着に着替えてとある人物にテレビ通話をかけていた。


「あっ、出た出た。やっほー佳穂かほ

『やっほー千陽。元気?』

「バリバリ元気! そっちはどう?」

『私もそこそこ元気かな』


 電話越しに映っているのは、森ノ宮佳穂もりのみやかほ

 先日まで、私とルームシェアをしていた相手であり、大学時代の同級生。

 佳穂が家庭の事情で地元に戻ることになったため、父親には内緒で、元気との同棲を決めた経緯があったりする。


『そっちはどうよ? 鶴橋君とは仲良くしてる?』

「もっちろん! もう毎日ラブラブしまくりだよー!」

『あーはいはい。それはよかったね』

「あー! そうやってすぐに興味ない態度取るー!」

『いやだって、鶴橋君の話になると、千陽のトーク止まらないから……』

「そんなことないもん! 15分ぐらいに抑えるようにはしてるもん!」

『長いんだよなぁ……』


 とまあ、先月までルームシェアしていた親友と通話して、互いの近況報告を兼ねて女子トークで盛り上がろうという感じである。

 そして話題は、必然的に同棲生活の話へと移って行き――


「ねぇ佳穂。私ってそんなに魅力ないかな?」


 私は今抱えている悩みを、佳穂に打ち明けてみることにした。


『どしたの、唐突にため息なんてついて?』

「あのね。私、元気くんと付き合い始めてから、もう三年経つでしょ?」

『んー? あーもうそんなに経つんだっけ?』

「そうなんだよ。それで、今まで中々二人きりになる機会が少なかったから、同棲始めたらいっぱいイチャイチャしようって決めてたの。でもね、私がいっぱいチューしたり、胸とか押し付けても、元気くん全然押し倒してくれないの!」

『あー……なるほど。それで千陽は、自分に魅力がないから、鶴橋君が襲ってくれないんじゃないかって心配してるってわけか』

「そうそう! だってあんなにアピールしてるのに、全然だよ⁉」


 同棲生活を始めて、ハグやキスなどアプローチしまくっているのに、その先の一線を全く超えてくれないのだ。


『なんでだろうね? もしかして、あんまりエッチなことに興味ないとか?』

「うーん。どうだろう? 今までシたことないから分かんないんだよね」

『えっ……千陽、今何て言った?』

「へっ? だから、元気くんとまだシたことないって」


 私が復唱すると、佳穂が画面の向こうで呆れたように盛大なため息を付いた。


『千陽……アンタ嘘でしょ?』

「えっ……? 私なんかやらかした?」

『地球滅亡レベルでやらかしてる』

「なんで⁉」

『はぁ……よくそれで三年間も付き合えたわね、あんたたち』

「ど、どういうこと佳穂⁉」


 私は自分で何をしてしまったのか分からず、困り果てて佳穂に答えを催促すると――


『彼氏にエッチを三年間も我慢させるとか、マジありえないから』


 と、火の玉ストレートの直球が返ってきた。


「え、そうなの⁉」

『当たり前でしょ。ってかアンタたち、大学生の頃から付き合ってるんでしょ? 普通の大学生なら、付き合った当日にホテル行って済ませるまであるっての』

「つ、付き合って当日⁉」


 嘘……エッチって、そんなに早く済ませるものなの⁉


『今まで、ホテルとか向こうの家での経験も一回もないわけ?』

「だ、だって……同棲するまで、元気くんも実家暮らしでご両親と住んでたし、私もお父さんからずっと門限制限掛けられてたから……」

『そんなの、適当に『家に着いた』って連絡して嘘ついて騙せばよかったでしょ』

「ゼ〇リーで位置情報共有されてるから無理なんだもん!」

『いや、なんで家族で位置情報共有してるわけ? てか、そういうことなら私に一言言ってくれれば、家空けたのに』

「いやいや、ルームシェアしてる家では、佳穂に申し訳なくて出来ないよ」

『別に私は気にしないよ?』

「私が気にするの! だって、『あっ、こいつら、昨日この部屋でお楽みだったんだろうなー』って思われるとか、恥ずかしすぎて死ねるし!」

『なるほどね。今の言動を聞いて、千陽達が三年間も付き合ってセッ〇スの一つも出来てない理由がよく分かったわ』


 佳穂は、心底憐れむような目で見つめて来る。

 私は慌ててスマホの画面に近付いて疑問を投げかけた。


「ねぇ、私もうどうしたらいいか分かんないんだけど、どうしたらいいの⁉」

『いい? よく聞いて千陽。セッ〇スレスって言うのは女の子が原因なの。つまり千陽が今までそういう行為を避けてきたことによって、鶴橋君は千陽がそういう行為が好きじゃないんだと思い込んでいるのよ。今頃、同棲初めていきなりスキンシップを取るようになって、心底驚いていると思うわ』

「嘘……それじゃあ元気くんにとって私は、ヌキ対象じゃないって事⁉」

『まあぶっちゃけ言うとそうなるね』

「そ、そんなぁ……」


 私はベッドの上に突っ伏してしまう。

 事情が事情で仕方なく出来なかっただけなのに、いつの間にか性的対象から外されていたなんて……。


『むしろ可哀そうなのは元気君の方だよ。三年間もシてくれない彼女とか。きっと今頃、セ〇レの一人や二人作っててもおかしくないよ?』

「セ、〇フレ⁉」


 嘘、元気君がセフ〇⁉

 そんなのありえない!


 でも、そうだよね……三年間も我慢させ続けちゃったら、元気君は欲を発散する場所がなくなっちゃうわけで……。

 もしかして、今日も谷町たにまちさんと飲みに行くというのは口実で、実はセ〇レと一緒に致しちゃってたりするの⁉⁉


『まっ、ここまで来たら、恥じらいとかすべて投げ捨てて、正直に『エッチいっぱいしよ♡』って、直接言葉にして言うしかないだろうね』

「そ、そんなぁ……」

『自業自得だよ』

「う“ぅ……」


 まさか、世の中のカップルがそんなに早くコトを済ませているなんて……。

 てっきり、同棲を始めてからとか、結婚してからなのかとばかり思ってた。


 これは、完全に私の浅はかな知識不足によるミス。

 となれば、いち早く、元気君に私のことを性的対象として見てもらわなければならない。


「佳穂……私、元気君に女として見てもらえるように頑張る!」

『頑張ってー。それじゃ、私はそろそろお風呂入るから切るね』

「ありがとう、色々話聞いてくれて」

『いいよー。また進展あったら報告ヨロシクー。そんじゃ』


 そう言って、佳穂との通話を終え、私はすぐさま元気君にメッセージを打ち込んでいく。


『今日、帰ってきたら聞いて欲しいことがある』


 と。


「これでよしっ」


 意を決して、私が送信ボタンを押しかけた時だった、ガチャリと玄関の扉が開く音が聞こえてきたのは……。

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