第9話 友人からのアドバイスPART1

 数日後、俺は再び仕事終わりに、怜人を呼び出して差しで飲みに来ていた。


「それで、今日はどうしたんだ?」


 ビール片手に、何の気なしに尋ねてくる怜人。


「なぁ、怜人……お前の言った通りだったよ。二人きりになってみないと分からないことって、めちゃくちゃあるわ」

「その反応から見るに、変貌したか?」

「変貌どころの騒ぎじゃねぇよ」

「そうか……それはご愁傷さまだな」


 怜人はそう言って、またビールを一口。

 そして俺は、堪えきれない気持ちを、ようやく吐き出した。


「俺の彼女、めっちゃ積極的でヤバいんだけど」

「いきなりのろけかよ!」

「いや、違うんだって。マジで千陽ちゃんが可愛すぎてヤバいんだって」

「あー……もしかして、変わったってそっちの方面でってことか」


 怜人は目を細めてじっとりとした視線を送ってくる。

 が、そんなの今はどうでもよかった。


「聞いてくれよ怜人、千陽ちゃんさ、俺が仕事から帰ってくるなり、一目散の俺のところに向かってきてくれるんだよ。それで、飛びつくようにしてハグしてきてくれて、エプロン姿で『おかえりー!』ってキスしてるれんの。ヤバくない⁉」

「あーはいはい。それはそれはお熱いことで」

「んでよ。俺も男だから、千陽ちゃんが可愛すぎて気持ちが毎回抑えられなくなりかけるわけ」

「だろうな」


 俺はテーブルにガンっと音を立てながら両手を置き、至極真剣な口調で前のめり気味に尋ねた。


「なぁ怜人。セックスって、どうやって誘えばいいんだ?」

「ブゥッ……!!」


 俺が今聞きたい一番の疑問を口にすると、怜人は飲んでいたビールを盛大に吹き出して、咳込んでしまう。。


「ゲホッ、ゲホッ」

「あぁ、何やってるんだよ。ほらお手拭き」


 俺が手拭きを差し出すと、怜人は吹き出してしまったビールが付いた衣服を拭きながら、ぎろりとこちらを睨みつけてくる。


「……いきなり何かと思えば、とんでもないこと聞いてくるんじゃねぇよ。ってか、今までの惚気話は何だったわけ?」

「だから、ことあるごとに二人きりでいるときに千陽ちゃんがイチャイチャしてきて、俺の理性がヤバいって話」

「えっ、お前もしかして、そんなにイチャついてるのに、襲ってないわけ……?」

「だ……だって……そこからどう流れ的に持って行ったらいいか、分からないんだもん」

「やめろ、頬を染めながら身体をもじもじとさせるな気持ち悪い!」


 俺は怜人に手で追いやられてしまい、大人しく席に座らせられてしまう。

 怜人は一つ咳払いをしてから、呆れた顔でこちらを見つめてきた。


「あのな……そんなの普通にキスした流れから、言葉で伝えるか行動で示せばいいだけじゃねーか。『ベッド行こ』とか、キスしながら胸触るとか」

「それはそうなんだけど……」

「あぁもう! 聞いてるこっちがまどろっこしいわ! お前はあれか、俗にいうヘタレってやつか!」


 怜人が行儀悪く、割り箸で俺のことを指してくる。


「だ、だって考えてみてくれよ? 付き合ってもう三年以上経つんだぞ? それなのに今更、『セックスしよう』なんて言えるわけないだろ!」

「お前は付き合いたての大学生か! ったくこれだからお前はよ……まあ、彼女傷つけたくないとか、そういう優しさを持ってるところが、お前のいいところでもあるんだけどな」


 怜人は面倒臭いといった様子で頭をガシガシと掻いてから、再び割り箸を突き出した。


「いいか? よーく聞け。いきなり二人きりになった瞬間イチャイチャし始めるってことは、千陽ちゃんからの一種のサインみたいなものなんだよ。私はもう、いつでもあなたにシてもらう準備が出来てますって言ってるようなもんだ。だから、自分から積極的にいったら嫌われるんじゃないかとか、そういう心配はいらねぇ。真正面から受け止めて、欲望のままに己の性欲をぶちまければいいんだよ」

「お、おう……なんだか説得力がすげぇぜ師匠」

「師匠って呼ぶな。とにかくだ。心の準備が出来てねぇのは、むしろお前の方って事だ。お前がその自制心を外しちまえば、近いうちにセッ〇スなり子作〇やら種〇けだって何でもできるよ」

「ちょっと待って、話しが飛躍し過ぎじゃない⁉」

「行為自体に変わりはねぇよ。結局セッ〇スってのは、ただの生殖行為に過ぎねぇんだから」

「おまっ……割り切ってんなおい」

「まっ、何が言いたいかって言うと、元々人間が持ってる本能的欲求なんだから、それに抗う必要はねぇってことだ」


 怜人の生殖活動どうこうの解釈は置いておきつつも、言いたいことはなんとなく理解できた。

 つまりは、千陽はそういう行為を俺からしてくれるのを、今か今かと待ち望んでいるということ。


「サンキュー怜人。お前のおかげで吹っ切れたよ」

「ならよかったよ」

「今日は俺のおごりだ。なんでも頼んでくれ」

「いや、今日はもう帰るよ」

「なんでだよ⁉ まだ一時間も経ってねぇじゃねーか!」

「腹括ったんだろ? なら、家でお前の帰りを待ってる奥さんに、お前の覚悟ってやつを見せてやれ」

「……怜人」

「じゃな、またなんかあったら呼んでくれ」

「待て待て、そもそも奥さんじゃねぇし! ってか、普通に腹減ってるからラーメンだけでも食いに行こうぜ⁉」


 怜人のアドバイスにより、俺の中で決意のようなものが固まったような気がした。


 今日帰宅して、千陽が甘えてきてくれたら、俺は欲望のままに千陽を襲う!


 そう覚悟を決めて、俺は怜人と夜の街へラーメンを食しに行くのであった。

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