第2話 突如変貌する彼女

 迎えた引っ越し当日、俺は怜人の車に荷物をのせてもらい、千陽と二人で暮らすマンションへと運び込み終えた。


「悪いな、手伝って貰っちまって」

「いいって事よ。これぐらい気にするな」

「上がっていくか? まだ何もないけど」

「いや、遠慮しとく。これから荷解きとか、やらなきゃいけねぇこと沢山あるだろ?」

「まあ、今日終わらせなきゃいけないってわけでもないし、別に俺は構わないよ」

「俺が構うんだっての。せっかく千陽ちゃんと二人きりの同棲生活初日なんだ。最初ぐらい、二人の時間をゆっくり過ごしな」

「だから別に、そんな気遣いいらないのに」

「ったく分かってねぇなお前は……」


 俺たちが玄関先でそんな押し問答をしていると、部屋の中から千陽がタッタッタっとこちらへ向かってくる。


「怜人さん、元気の荷物運び、手伝っていただきありがとうございました」


 千陽はボブカットの茶髪を揺らしながら、律儀に怜人へお礼のお辞儀をする。


「いえいえ、千陽さんこそ、お元気そうで何よりです。これからコイツの事、コキ使っちゃってください」

「おい、やめろって……」

「はい、そのつもりなのでご心配なく」

「千陽⁉」

「はははっ、ドンマイ元気。尻巻き生活ガンバ!」


 けらけらと怜人に笑われながら、俺は背中を叩かれる。

 まさか、千陽が俺のことをからかってくるとは予想外だ。


「んじゃ、そろそろ俺はお暇しますわ。お二人とも、まずは引っ越しおめでとうございます。これから始まるお二人の新生活が、幸せなものでありますように。陰ながら応援しています」

「ありがとうございます怜人さん。またいつでもいらしてください」

「はい、その時はお世話になります。ってことで、今日は失礼します。それじゃあな、元気」

「おう……今日はありがとな」

「いいってことよ」


 怜人はぺこりと千陽にもう一度一礼してから、踵を返してマンションを後にしていった。

 玄関の扉を閉め、靴を脱ぎ、今日から暮らす新しい新居へと上がり込む。


 部屋は1LDKの、築五年のマンション。

 バス、トイレ別で、キッチンも充実しており、駅から徒歩五分という好立地だ。


 俺と千陽は、お互いに向かい合って視線を交じ合わせる。


「えっと……改めて、今日からよろしくな、千陽」

「うん、こちらこそよろしくね、元気君」


 千陽は頬を軽く染めて、身体をもじもじさせ落ち着かない様子。

 俺はふっと笑みを浮かべ、千陽の頭を撫でてあげる。


「緊張してるよな。何か困ったことがあったら、いつでも言ってくれ。今日から一緒に暮らすわけだからな」

「うん、ありがとう……」


 最後にポンポンと優しく千陽の頭を撫でてから、俺は横を通り過ぎて、段ボールの積み上がったリビングへと向かう。

 

「よしっ、それじゃ早速、荷解きしちゃいますか」


 俺がパチパチと手を叩き、部屋の前にある段ボールの整理に取り掛かろうとした時である。

 突然後ろから、ガシっと身体をホールドされた。


「元気―! 元気、元気、元気―!」


 なんと、千陽が俺の背中に抱き着いてきて、スリスリと顔を擦り付けてきたのだ。

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