第3話 化けの皮が剥がれた彼女
普段おしとやかな千陽のぶっ飛んだ行動に、俺は思わずびっくりしてしまう。
「ち、千陽⁉ ど、どうした急に⁉」
にわかに信じがたい光景を目の当たりにした俺は、慌てて振り返り、千陽の両肩に手を置いて、顔色を窺った。
すると、千陽は蕩けた表情でこちら見上げてきて、さらにとんでもない一言を言い放つ。
「ねぇ元気、キスしよっ?」
「キスって……んっ⁉」
耳を疑うような言葉を発したかと思った矢先、千陽がその柔らかい唇を、俺の唇に合わせてきたのだ。
力いっぱい押し付けてくるような、ブチューっとしたキスを数秒間して、千陽はパっと唇を離した。
俺が呆然としている間にも、千陽は恍惚な表情でこちらを見据えて来る。
ようやく状況を理解した俺は、口をアワアワとさせながら声を出す。
「ち、千陽。落ち着いて、きゅ、急にどうしたんだよ?」
動揺しながら千陽に尋ねると、彼女は自身の両頬にを当てながら口を開いた。
「だって、私たちもう付き合って三年以上経つのに、全然こうやってイチャイチャしてこなかったでしょ? だから、元気と一緒に暮らし始めたら、二人きりでいる時は、もう自分の気持ちを抑え込まないって決めたの」
そう言って、千陽は再び、俺の唇へ軽くキスをしてくる。
今度は、柔らかい唇の感触を確かめ合うような優しいキスを交わしてから、俺は再び口を開く。
「それってつまり、千陽は俺とこうしていっぱいイチャつきたかったって事であってるか?」
「うん……そうだよ」
「マジか……」
恥じらいながら述べる千陽からの衝撃の告白に、俺は唖然としてしまう。
デートの時、外で手を繋ぐのさえちょっと戸惑いを見せていたあの千陽がだ……。
「もしかして、元気は私が、もっとスマートな恋愛を望んでると思ってた?」
「そりゃだって、今までそういう甘えてくるような仕草、全然見せてこなかったから」
「外だと恥ずかしいから無理だもん。それに……デート中に私の方からホテルに誘ったりしたら、欲求不満な痴女って思われちゃうと思って、ずっと我慢してたんだよ」
「そ、そうだったのか……。ごめん俺、全然気づいてなくて」
てっきり千陽は、プラトニックな関係を望んでいるのだとばかり思いこんでいたから……。
「ううん、これは仕方ないよ。私も上京してきてからずっと、元気に我慢させるような生活してきちゃったわけだし」
千陽は、大学時代は女子寮に住んでおり、社会人になってからは友達とルームシェアをしていた。
それに加え、父親が重度の過保護で、千陽と位置情報アプリを共有し監視する徹底ぶりだったため、中々二人きりで寝泊まりする機会が無かったのである。
「いや、俺もてっきり、千陽はそういう情熱的なイチャイチャみたいなこと、あんまり好きじゃないんだって思い込んでたから、全然ホテルに誘おうとか言う気にもならなくて」
「そうだと思ってたよ。でも本当は、いつか元気が連れて行ってくれる日を、密かに楽しみにしてました」
千陽の口から次々に放たれる、衝撃的発言。
つまり、控えめだと思っていた彼女は、ただそう言うイチャラブ行為を我慢していただけだったということになる。
「マジか……。本当にごめん」
「謝らなくていいよ。これはお互い様だから仕方ないことなんだからさ。それよりも――」
すると、千陽は腕を俺の首元へとまわして、顔を目いっぱい至近距離に近づけてくると、満面の笑みで言い放った。
「今までの三年間出来なかった分を取り戻せるぐらい、これからはいっぱいイチャイチャしようね!」
そう言い放った千陽の顔は、期待と幸せに満ち溢れていた。
『一緒に暮らしてみないと分からないことがいっぱいあるんだよ……』
先日、怜人に言われた言葉が、脳内にフラッシュバックする。
怜人の言った通り、いくら近しい関係だったとしても、分からないことというのはまだまだいっぱいあるようだ。
だとしたら、俺が出来ることは一つしかない。
「分かった。千陽の事、満足させられるよう、俺も頑張る!」
「うん! いっぱいイチャイチャしようね♪」
こうして、三年間内気だと思っていた彼女と始まった同棲生活は、思わぬ形で最高の幕開けをすることになった。
「あっ、そうそう元気。ちなみにだけど」
「ん、どうした?」
「もし私にシて欲しいことがあったら、何でも言ってね! もちろん、そういう意味でね」
「えっ……⁉」
前言撤回、やっぱり彼女と始まった同棲生活は、波乱の予感がプンプンしている。
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