勝負の行方は

「アン?こんなもんかよ」

 ワン、ツーと芝生に杭を打って作った簡易リングにカウントの声が響く。対戦相手のユウコが嘲笑う声が聞こえた。

 視界が揺れる中、あたしは身を起こす。ユウコとレフェリーを務めるユウコの友達が驚いた顔をする。たぶん、ユウコのこのパンチを食らって立ち上がった奴は今までいなかったんだろう。

 まぁ、あたしも得意げに笑っている場合ではない。それなりに強いつもりのあたしだったが、ユウコには手も足も出ず(ボクシングなので足は反則だけど)、最終ラウンドの今までほぼ一方的にやられっぱなしだ。

「へぇ、けっこうしぶといじゃん」

「ハッ!あんたのへなちょこパンチじゃ、何発浴びてもノックアウトなんてされないわよ!」

「……言うじゃん」

 クイクイッと挑発すると、ユウコはステップを踏みながら距離を詰めてくる。そしてジャブからのワンツー。挑発されながらも堅実な攻撃だ。

 だけど、あたしにはこれが唯一のチャンスだ。ユウコのストレートパンチ。これに合わせて渾身のコークスクリュー・ブローをカウンターで打ち込む。


バッギグシャァア!


 ほんのわずかな幸運に恵まれ、あたしのパンチはユウコの頬を穿った。会心の一撃を食らったユウコはマウスピースを吹っ飛ばして、錐もみして、倒れた。

 レフェリーの子は呆けたようにちょっと固まった後、戸惑ったようにカウントを取り始めた。もう試合を止めてもいいんじゃないかな、と思ったとき、

 ユウコが身を起こした。

「……やって、くれるじゃん……!」

 カウントナインで立ち上がり、ファイティングポーズをとる。その時、試合終了を告げるタイマーが鳴った。


 あたしは「あれだけボコボコにされたんだし、あんたの勝ちだよ」と主張し、ユウコは「いや、最後のパンチ、ちゃんとすぐにカウント取っていたらあんたがKOで勝っていた」と主張して譲らなかったので、結局引き分けということになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る