学園ラノベの主人公があんまり登場しないギャグ回

 金髪だけならアタシのダチにも何人かいるが、「金髪縦ロール」なんて初めて見た。ついでに言うと、教室の机と椅子を特注品に取り換えているやつも、メイドを従えているやつも、歩く先々に赤いじゅうたんを敷き詰めるやつも初めて見た。

 ……こんな「お嬢様」がなんで兄貴の高校にいるんだ、本当に。

 こんな我儘そうなやつに目を付けられるとは兄貴の女運の無さもなかなかのものだが、まぁいい。「二度と他人の兄貴を勝手に外国まで連れ歩くな」とだけ釘を刺しておく、ただそれだけだ。

「何者です!」

 横に控えていたメイドが行く手を阻む。ヤンのかコラ!?

「およしなさい。……さんですわね?」

 縦ロールがアタシの名を呼ぶ。

「なんでアタシの名前知ってんだよ」

「あなたのお兄様からうかがっておりますわ。なんでもわたくしに話があるとか。わたくしも一度貴女と会ってみたかったんですのよ」

 ……兄貴のやつ、いらん気まわしやがって!!

「だって、わたくし一度会ってみたかったんですのよ……スケバンさんに!」

 ……ハァア!!?

「恥ずかしながらわたくし、一度もスケバンさんにお会いしたことが無くて……」

「スケバンじゃねーし!」

 兄貴!いったいこいつにアタシのことなんと説明したぁああああ!!?

「あら、そうですの。……ところで何のご用件ですのスケバンさん」

「だから違うっつってんだろが!?……兄貴のことだよ。なんだよ「海外視察に付き合えー」つって一か月もナンチャラ共和国とやらを連れまわして!どんだけ心配したと思ってんだよ。……今度からはそういうことやめてくれよ?」

 よし、用件は言った。帰る。この縦ロールと会話するのは疲れる。こいつのクラスメート全員(兄貴含めて)尊敬するわ。

「……申し訳ありませんがそれはお約束できかねますわ」

 ……なんだと?

「貴女のお兄様はわたくしの下僕です。必要ならこれからもどこへでも連れて行きます」

ガン!

 アタシは思わずそばにあった机を蹴り飛ばす。(机の持ち主、すまん)

「テメェ、他人の兄貴を下僕だと……!?アタシがそれを聞いて、はいそうですかと答えるとでも思ってるのか!?アァ!?」

 メイド女が再び前に出る。上等だ、やる気ならきやがれ!返り討ちにしてやる!

「……貴女のおっしゃることはもっともですわ。わたくしが貴女の立場だとしてもそう言うでしょうね」

 ところが縦ロールはメイド女を再び控えさせるとそう言って来た。

「なら……」

「ですが!わたくしにも譲れないものがございます!そして貴女にも譲れないものがある!ならば、勝負と行きましょう!貴女の流儀に合わせますわ!今日の夕方、河川敷で待っております!そこで雌雄を決しましょう!……貴女のお兄様を賭けて!」

 おい、何言ってんだこいつ。おい、なんでヘリコプターが縄梯子を垂らしてんだ!?おいこら縦ロール、颯爽とそれに飛び移るんじゃない。メイド、おまえもだ。というか授業まだあるだろ。先公、たしかにアタシも部外者だけど、アタシを追い出す前にあの縦ロールを呼び戻せ。おいこらクラスメートども、おまえらもなんで無反応なんだよぉおおおおおお!!!????


 そして夕方、河川敷に行ってみると……

「……なんじゃ……こら」

 河川敷に昼間は無かった特設リングが作られていた。ボクシングとかプロレスの試合で使うような奴だ。

「……来ましたわね」

 アタシが呆然としていると縦ロールが声をかけてきた。……金刺繍がふんだんに使われてはいるが、ボクシングの試合着と思われる格好で、有名革細工ブランドのロゴが入った赤いボクシンググローブを付けて。

「……な、なんのつもりなんだ……??」

「何と言われましても……その、不良の方々は夕焼けの河川敷で殴り合って決着をつけるのでしょう??」

 ……もうやだ、この縦ロール。


 リングの周りには兄貴の同級生たちが見物人として集まっていた。

 アタシはなんだかんだで押し切られ、メイドたちの手によってリングコスチューム(黒を基調としたもので、すごく肌触りがいい)に着替えさせられてしまった。

 セコンド役のメイドに付き添われ、アタシは青コーナーからリングインする。

「なぁ、いいのか、アンタらのお嬢様殴っちまって」

 アタシが小声で尋ねると、そのメイドも小声でささやき返した。

「いいんです、ちょっとした喧嘩くらいした方が。……お嬢様にはこれまでそういうことをできる相手が居ませんでしたから。どうかよろしくお願いいたします」

 リングアナ(本職を呼んできたらしい)のアナウンスとともに縦ロールがノリノリで入場してくる。さらにクレーン車が「賞品」と書かれた紙を張りつけた兄貴を高々と掲げた。(他人の兄貴を勝手に吊るすな)

「いくらスケバンさんが相手でも、わたくしの下僕1号は誰にも渡しませんわ!」

縦ロールが宣言する。

「いいから、とっとと始めろよ」

 こいつと会話していると頭痛がしてくるので、アタシは会話を打ち切った。

 あのメイドからはああ言われたが、さすがに手加減をしてやらねぇとマズいだろうなぁ……。


カーン!

ドッガシャー!

「ぶばっ!?」

 ……ゴングと同時に放たれた縦ロールのストレートがアタシの顔面を打った。すごい威力だ。顔が痛い。鼻血が出た。

「ってっめぇ!?喧嘩は初めてじゃねぇのかよ!?」

「初めてですわ。ですが、淑女のたしなみとして、護身術と武道の鍛錬は一通り行っておりますわ。……試合をするのは初めてですけど」

 ……上等だ……。なら……。

「遠慮はいらねーなッ!」

ドボッ!

「ぐえぇえええ……!?」

 アタシは全力で縦ロールのお腹をぶん殴る!完全に油断していた縦ロールのお腹に、アタシの拳は沈み込んだ。

「おぇ……よ、よくもやりましたわね!」

ドガ!ベキ!ボコ!

「ぐああああ!!」

 縦ロールが殴り返してくる。いろいろ習っているだけあって、フォームがきれいで、速い!おまけに痛い!

 だけど……やられっぱなしで終われるか!!

ドゴンッ!!

「ぶふぇぇ!!?」

 アタシが意地で打ちこんだストレートは縦ロールの顔面に命中し、彼女の身体を吹っ飛ばした!

「こ、このくらい平気ですわ!!」

 けれども、リングに倒れこんだ縦ロールは鼻血を垂らしながらも立ち上がる!

 アタシも拳を構えると、目の前の憎き非常識生命体をボコボコにするべく殴りかかった!


 ……あれからどれほど殴り合っただろうか。


ドガッ

「ぶべぇ……」

 縦ロールのアッパーでアタシは吹っ飛ばされた。


ボゴッ!

「きゃうん!!……ろ……ローブローは……反則ですわよ……!?」

 縦ロールの股間をぶん殴って悶絶させてやった!


バゴン!

「ぎゃう!?」

「ふふん、カウンター、ですわ!」


ボカッ!ベキッ!バコッ!

「~!!!!????」

「ヘヘッ!コーナー際で受けるパンチの味はどうだ!?」


 ……今はラウンドの間のインターバル。セコンドのメイドさんが一生懸命手当してくれている。

 縦ロールも自身のセコンドに手当てを受けながら、苦しげにこちらを見ている。

 やがてセコンドアウトが宣言され、アタシたちはスツールから立ち上がってリング中央に赴く。

「レディー……ファイッ!」

カーン!

 ゴングと同時に、アタシたちは示し合わせたかのように、全力のストレートを放った!

ドグワシャッ!!!!!!


「あ……。ぁ……」

 アタシの左ストレートは縦ロールの頬を打ち抜き、彼女の金色のマウスピースを吹っ飛ばしていた。

「……ち、ちくしょ……ぉ……」

 ……そして縦ロールの右ストレートはアタシの顎を的確に打ち抜いていた。

 縦ロールが目を白黒させている。

 アタシの視界がグラグラ揺れる。

ドタン!!

 ……アタシたちは沈みかけた夕日で真っ赤に染まったリングに、それぞれ大の字で倒れた。


「アンタのこと誤解してた」

 仮設医務室で目を覚ましたアタシは、隣のベッドで同じく目を覚ましたお嬢様に謝罪した。

「単なる変人かと思ってた。……強い、人だと思う。……兄貴のこと……よろしくお願いします」

「頭を上げてください。……貴女のお兄様の安全はわたくしの名に懸けて守りますわ」

 アタシたちは握手する。このお嬢様の言っていたことは正しかったのだろう。夕焼けの河川敷で殴り合って芽生えた友情は間違いなく本物だったから。


 ……あと、余談だが、二人ともこのあと十分ほど、兄貴をクレーン車の上にぶら下げたことを忘れていたのは猛省したい。というか、誰か思い出してやれよ!メイドでもクラスメートでも!!

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