最終ラウンド

「次倒れたらタオル投げるからな!」

 顔は腫れ上がり、鼻血は止まらない。それでも会長が止めずに最終ラウンドに送り出してくれたのは、ノンタイトル戦とはいえ私がチャンピオン相手に最終ラウンドまで戦い抜いたからだ。

 対戦相手の太平洋チャンピオン・橘美希はうっすらと笑みを浮かべて拳を構える。第1、第2ラウンドくらいは私もそれなりに戦えていたが、後は正直、橘選手の独壇場だった。

 でも、無理はない。橘選手は私の憧れのボクサー、私がプロボクサーを目指すきっかけとなった選手だったのだから。

 正直、立っているだけで精一杯。でも、せっかく憧れのボクサーと戦えるんだ、できる限り戦い抜いてやる!

 ゴングと共に私は橘選手へと距離を詰める。足下がちょっとおぼつかないが、それでも距離を詰めて、フックを……

 橘美希がニッと笑った。繰り出されたのは彼女の代名詞である必殺のコークスクリューブローだった。……もっとも、そうだと気付いたのは、私の顔面にパンチがめり込んで吹っ飛ばされた後だった。

 会長がタオルを投げ入れ、ゴングが打ち鳴らされる。私は仰向けに倒れたまま、それを聞いていた。

 いつか……今回は手も足も出ず負けてしまったけど、いつかタイトルマッチで……橘選手ともう一度戦う。

 そのときは負けないから、と思いを込めて、橘選手の方に目線をやると、「こっちだって負けないわよ」とウィンクを返された。

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