女子ボクシングショートショート

s-jhon

契約は果たした

 レフェリーがゆっくりとカウントを取る。対戦相手がふらつきながら立ち上がり、こっちを睨み付ける。ついでに対戦相手のジムオーナーも。

 ここでゴングが鳴って、インターバルになる。うちのトレーナーが耳元で囁く。

「なぁ、おい。例の約束、おまえ納得してくれたんじゃなかったのか……!?」

「分かってるって。アタシが負けりゃいいんだろ。ちゃーんと契約は守るさ」

 最終ラウンドのゴングが鳴る。対戦相手が悪態をつきながら突っ込んできた。軽く躱してパンチを見舞ってやる。ふらついたところにワンツーブロー。そして思いっきりフック!

 対戦相手のデカブツはフラフラだ。……ま、自分ところのボクサーがこんな体たらくじゃ、あっちのオーナーも金でも使って八百長持ちかけなきゃやってらんないだろうね。

バキッ!

 アタシのフックがデカブツの脇腹にめり込む。デカブツはマウスピースを覗かせて目を白黒しているが、意識はしっかりあるようだ。

「テ……メ、ェ……!」

「ハッ!ちゃーんと勝たしてやるぜ?」

ドムッ!バゴッ!ドスッ!

 デカブツをロープ際に追い込み、ボディーにパンチを叩き込む。デカブツの脳を揺らして意識を断ってしまう心配はないし、倒れようとしても倒れさせない。

 試合終了のゴングが鳴る。判定はもちろん相手の勝利。ちゃーんと勝たせてやったんだから、金の支払い忘れんなよ。

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