あさっての恋文

晴れ時々雨

𓆏

突然のお手紙に驚かれたでしょうが、なるたけ早いうちにお目を通していただけると幸いです。

心情を口にするのだからよっぽどのことなんでしょうけど、あなたの気持ちにこたえることができません。今日こんな形でお返事をしようと思い立ったのは、あなたの熱意に対するせめてもの礼儀として今までその都度手短に即答してきた詳細を明白にしておく必要があると考えたからです。にも関わらず直接お渡しする勇気が持てず、あなたの意識がないのをいい事に、ポケットに忍ばせたのですが。

慇懃な言い方になりますけれど、私はあなたの提案を受け入れることができません。なかなか上手い言い回しが見当たらず重複になりました。


私は自分をそう愛してはいませんが、こうして欲しいという望みがあります。それを今、具体的にどうこう言うつもりはありません。ですが私を愛すると言うならば、私がして欲しいように愛していただけない限り、私はその行為に一生気がつかないでしょう。

私はあなたが嫌いなのじゃありません。むしろ一緒に居てもさっぱり邪魔にならない。それが自然になればなるほど怖くなるのです。

同じものをみて機嫌が良くなるときふと、あなたのことがわからなくなる。あなたの仄かな口角の上昇にすら疑問を抱く。

私はきっと誰とも何をも共有してはいけないしまたできない人間なのでしょう。もっと他の人であれば、どう感じていようがさして気にもならないのに、あなただと全然駄目になってしまう。もう少し一緒にいてみようと思う心がすぐに挫けてしまう。

ですのであなたが珍しく言葉少なに、性急に私の体に触れてくるときはほっとしています。

これは私が一部でしりがるだと噂されている要因の一つでしょう。あなた以外は心云々、気持ち云々いい出しませんから。それどころか何色で何を想像するとか、空模様などの話もしません。前に仰っていた、道ばたで干からびている蛙の死体からあなたのおばあ様がアカスリを万引きした話に及んだのは大層興味深かった。それに引き換え他の人たちとは、ただ何となく知っている事として、具合のいい体勢があるのだな、程度のものなのです。

そういうお付き合いが気軽でいいです。私も不安なのです。あなたと居ると特に。

おわかりいただけたでしょうか。是非わかっていただきたい。何しろあなたの言うような事をし始めたら、絶対に上手くいく気がしないのです。

断腸の思いというのはこのことなのですね。でも間違った判断だとは思えません。

とてもとても後ろ髪をひかれる思いですが、今回もこれ以降もお断りさせていただきます。なにを勝手なことをとお思いでしょうが長い目で見たらお互いのためです。どうかご容赦ください。

また水曜日、今度は発電所のほうに行かれますか?3時でしたね。あそこも温度が安定しているので過ごしやすくて良いです。がんばって遅れずに行きたいと思います。

それでは。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あさっての恋文 晴れ時々雨 @rio11ruiagent

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る