第6話 予定
「先輩はGW何か予定あるんですか?」
GWによる連休前最後の部活に向かう最中冬嶋はそんなことを聞いてきた。
「短期でバイト探すか、家でゴロゴロするかそのへんだな」
「予定合わせて映研の皆で遊びに行きましょうよ!」
「それは楽しそうだな!とりあえず皆に聞いてみるか」
視聴覚室に着き中に入ると部員全員既に席についていた。春日井先輩は勉強を、小西は読書を、柚月はスマホを弄っていた。
「春日井先輩や小西はともかく柚月が早いの珍しいな」
「前まではこのくらいには来てたでしょ。そういうあんたは冬嶋さんとの放課後デート随分遅かったじゃない?」
「断じてデートではない。やめてくれ柚月」
「なんでしょう。はっきりそう言われるとムカつきます」
それぞれ席に座った所で春日井先輩が口を開いた。
「もし良かったらだけどGWは皆で映画を観に行かないかしら?高校最後の想い出を部活の皆と作りたくて…
」
穏やかな表情とは裏腹に少し寂しそうに言った春日井先輩の提案に皆二つ返事だった。
「俺達もちょうどその事で話てたんです。映画鑑賞最高です!」
「その後カラオケとかも行きましょうよ!」
「春日井先輩の私服気になります」
「皆で集まって出かけるなんて去年まではあんまりなかったもんね」
各々が一斉に喋りだしたせいか、はたまた何か他の理由があったのかわからないが春日井先輩は笑った。
その笑顔はとても美しく綺麗だった。
「それじゃあ今日は観る映画決めましょうか」
ホワイトボードの横にある椅子に座った春日井先輩は油性マジックペンを手にとり会議が始まった。
「はい!」
「冬嶋さんどうぞ」
勢いよく最初に挙手した冬嶋は勝ち誇った顔をしていた。おおかた定番どころだろうなと思いながらも耳を傾けた。
「名探偵コニャン!」
キュキュとホワイトボードに春日井先輩がタイトルを書いていく。案の定、ド定番だった。
「おいおい冬嶋。コニャンて…」
「菅原君。とりあえず意見は出揃ってからにしようね」
「すみません」
俺が謝罪すると冬嶋は可愛く舌を出していた。いつかその舌を引っこ抜くことを決意しながら会議に集中した。
それから様々な意見が出た。小西からは有名歌手が主題歌を歌う特撮作品のリメイク映画、柚月はハリウッド映画、俺はアニメ映画とホワイトボードが埋まっていった。
「皆の意見が出たみたいね。それじゃあどれを観るか決めましょうか」
「春日井先輩の観たい映画が入ってないですよ?」
小西が指摘すると春日井先輩は優しく微笑んだ。
「私は皆の観たい映画を一緒に楽しみたいからいいの。こういう時じゃないと観ない映画ってあるじゃない?」
「そういう考えもあるんですね」
冬嶋は関心したように春日井先輩を見ていた。柚月と小西は納得していないようだった。もちろん俺も。
「春日井先輩。候補は多い方がいいと思うので先輩からも何か1つお願いします」
「私も春日井先輩が興味のある映画知りたいです」
俺と柚月の言葉に春日井先輩は困った様に笑うとホワイトボードにタイトルを書き始めた。そこに書かれたタイトルはcmなどで流れて見覚えがあった。春日井先輩の観たい映画は意外にも恋愛映画だった。
「あー!これ私も観たいと思ってたやつです!」
「テレビの番宣で見たことあるかも」
各々が反応をしていると春日井先輩は恥ずかしそうに手に持ったペンを握っていた。
「笑わない…?」
「笑いませんよ。というより乙女な先輩が見れて俺嬉しいです」
「もう!またそういうこと言って」
頬を膨らませてみせてはいたが美人はむくれても美人だということがわかるだけだった。
「それじゃあ多数決取りましょうか。まずコニャンがいい人!」
候補に上げた冬嶋は手を挙げずそのまま0票だった。
その後も皆、候補に手を挙げないまま最後のタイトルになった。
「じゃ、じゃあこの映画が観たい人…」
全員が手を挙げた。なんとなくこうなる気はしていたのだがこうも一致団結すると謎の達成感があった。
「皆ありがとうね…」
それから日時を決め解散となった。
「先輩はたまに男らしいとこ見せますよね」
いつもの様に冬嶋と下校をしていると急にそんなことを言った。俺は鼻を鳴らした。
「俺は常に男らしく生きてるだろ」
「はぁ…先輩と付き合う人って大変そうですね」
「冬嶋と付き合う男も大変だな」
「先輩?何か言いました?」
ニコニコと微笑む冬嶋を見て俺は口笛を吹いておどけて誤魔化そうとした。何だか最近冬嶋の尻に敷かれている気がする今日この頃である。
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