第4話 夏川柚月
【先輩今日も一緒に帰りましょう!】
授業が終わり帰り支度をしている時スマホに一通のメッセージが届いた。送り主は後輩の冬嶋だった。
今日は映像作品研究部の活動が休みな為、特に予定はなかったのだが部活の終わりに帰るならまだしも何もない日に一緒に帰るのは違う気がする。辺りを見回す
と友人Bことタイフーン伊崎も同じく帰ろうとしている所に声をかけた。
「伊崎。この後飯食いいこうぜ」
「菅原か。悪いな今日は行くとこあるんだ。また今度埋め合わせる」
「いやこっちこそ急に誘って悪かった」
伊崎の他に何人か声をかけるも、今日はどうやら皆都合が悪い様子だった。俺が溜息をつき諦めて冬嶋と帰ろうと思った時視線に気がつく。その視線を目で追うと元カノの夏川柚月が見ていた。
「よぉ柚月!帰りにデートしようぜ!」
「行くわけないでしょ。よく私に声かけられたわね」
「未練たらたらに見られてでもお前と帰りたい理由があるんだよ…それにこういう時、柚月はなんやかんや付き合ってくれるいい女だからな」
俺の言葉に柚月は溜息をつき、スマホで何度かやり取りをすると荷物を纏めて教室を出る。柚月もダメか…そう思っていると柚月が戻ってきた。
「ほら行くわよ」
「柚月さんマジいい女っす!」
「今日は奢りね」
久しぶりに隣を歩く夏川柚月を横目に見て思う。こんな美人と1年交際出来たことを誇りに思うべきなんだよな…と。
☓ ☓ ☓ ☓
夏川柚月との出会いは中学2年の時に俺の中学に転校してきた時のことだった。俺のクラスに転校してきた彼女は1日で周りの心を掴んだ。容姿端麗で誰とでも別け隔てることなく話す姿がそれを可能にさせていた。
俺はそんな姿を見て疲れそうだなと思いながらそっと目線をそらしていた。
ある日の昼休みのことだ。一人で小説を読んでいるところを夏川に話かけられた。
「ねぇ菅原君は私のこと嫌い?」
「そういうこと聞いてくる人が嫌いだよ」
「あはは手厳しいね」
美人な女子に話かけられてテンションを上げるなんてダサすぎる。そう当時の俺はぶっきらぼうに答えていた。それにしても何故そんな質問をしてきたのかは気になって少し話を聞いてみることにした。
「別にこれだけの人数詰め込まれている教室に1人2人くらい嫌われたって問題ないだろ」
そういうと夏川は困った様に苦笑いをした。誰とでも仲良くなりたいと思ってるめでたい奴。そうカテゴライズしようと思った時だった。
「一人ニ人ならいいんだけどね…」
その寂しそうな声を聞いてすぐに自分の思考に後悔した。興味を持たない様に夏川の存在をシャットダウンしていて気がつかなかったが周りが俺と夏川の話ている様子を喜々として見ていた。俺は居心地が悪くなり席を立った。
それからしばらくしてのことだ。夏川柚月は男子を振りまくって女子に嫉妬をされている。そんな話が出回りはじめた。モテる女の宿命だなと当時の俺は馬鹿なことを考えていた。放課後1人で歩く夏川の背中がとても寂しそうに見えた。同情なんてしてほしいのか?俺なんかに声をかけられて迷惑じゃないか?
もし自分が転校先で疎外感を感じてしまったら?
俺の足は勝手に速度を上げていた。
「よぉ夏川。デートしようぜ」
☓ ☓ ☓ ☓
「柚月が暇で助かったよ」
チェーン店のカフェで注文を受け取り席につき改めて礼を言うと柚月は何でもないかの様に口を開いた。
「別に暇ではなかったわよ。放課後に呼び出されてたし」
「おい良かったのかよそれ…」
「多分大丈夫じゃないかな。多分告白か何かだろうし、そんなにオラオラしてる人じゃなかったから」
「振られることすら許されないって残酷なことしてんぞそれ」
「脈がないと思ってくれればいいんだけどね」
俺と別れてから男子からの告白が毎日の様に続いているらしい。元カレとしては自慢できるが複雑でもある。
口が渇き始めたので俺はアイスティーを口にした。
ストレートティーはお茶の香りを楽しめてとても心地良い気持ちになれるから好きだ。
「それであんたが私に頼みごとするって何があったの?」
「実はな…」
俺が事情を説明すると柚月は溜息をつくと眉間を人差し指で抑えた。
「それこそ私が怒られる奴じゃない」
「お互い様だろ」
「すみませんティラミス追加で」
「かしこまりました」
さらっとティラミスを追加されたが背に腹は代えられないので注文追加をスルーすることにした。
「一年の可愛い子がすぐに彼氏作ってイチャついてるって話聞いてたけどアンタとは思わなかったわ」
「付き合ってないしイチャついてない」
俺としては‘’それ‘’を気にして柚月に相談を持ちかけた。
柚月なら何かしらアドバイスをくれるそう思って誘ってみたのだが…
「何というかアイツの迷惑にならん様にするにはどうすればいいと思う?」
「何それ?」
「いや付き合ってもない俺がいるせいで出会いが減ってるわけだろ?それとなく距離を置けば俺だけじゃなくもっと広く交友が…」
「私と付き合ってから随分と天狗になっちゃったわね」
「え?」
呆れた様子の柚月に俺が聞き返す。すると柚月は微笑みながら言った。
「アンタに優しくする子が交友関係狭いわけないじゃない。アンタは堂々と一緒に帰っていいのよ」
「付き合ってないのに?」
「私達も‘’今‘’は付き合ってないでしょ。気にしすぎてるのか気にしてなさすぎるのかわかんない男ね」
届いたティラミスを食べて幸せそうな顔をしながら言った。
やっぱりこいつに相談して良かったと思う。俺が悩んでいる時、悩みを聞いた上でぶった切ってくれる。
「相談したのが柚月で良かった」
「まぁこんなこと男子に相談したら嫉妬されちゃうもんね」
何か思う所があったのか苦笑いしながら呟いた。
「そうだ柚月。そのうち部活顔出してくれよ。春日井先輩が会いたがってたぞ」
「アンタと別れてから気まずくて行きづらかったけど、こうやって話して前と何ら変わりないことわかったし行こうかな」
「何も変わらんだろ」
「私にしつこく復縁求めてきたら面倒くさいじゃない?」
そう悪戯っぽく笑う柚月に少しだけドキリとした自分に腹が立った。
「寄り戻してくれ〜てダサいからな。それに振られた理由教えてもらってないのに無理ゲーだろ」
「教えたじゃない?他の子見すぎなのが気に入らなかったのよ」
「それがホントなら楽なんだけどな」
軽口を叩き合いながら時間を過ごし店を出た。柚月は
駅の方に、俺は駅とは反対の方へとそれぞれ歩き出した。以前までなら駅まで一緒に歩いただろうなと少しだけセンチメンタルになっていたのは柚月との想い出の香りを感じたからだろう。
☓ ☓ ☓ ☓
今日急に誘われた翔琉からの誘いに私は嬉しくなった。最近一年の冬嶋さんと付き合っている噂を耳にしていたから切り替えの早い男と呆れていた時だった。私が別れを切り出してから二週間以上たってほとんど会話が無くなっていた。別れたカップルなんてそんなもんだと思うけれど、どこか絆や想い出がゼロになったように寂しかった。そんな時に言われたのがあの日と同じ言葉だったからズルい。
「何ちょっと期待してたんだろ」
誰にも聞こえない独り言は風と共に消えた。
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