第三話 憑りつかれた様に謝る少年
「ジャック、大丈夫!? 何があったの?」
ソフィア様の高い声が矢のように飛ぶが、返事はない。
ジャックの声のした方へ向かうにつれ、室内の温度が高くなるのを感じる。パチパチと聞こえる火花の音に、背筋が凍った。
「あ、あぁ……」
ジャックの抱えているドレスが燃え盛っている。今にも他のドレスや部屋の家具に燃え移りそうだ。
「ジャック!! ドレスから離れて!」
いつものソフィア様からは想像もできない、鋭い声にジャックは驚きながらも、私たちを認知する。
「来ないで!!!」
ジャックもソフィア様と競えるぐらいの大きな声で叫ぶ。大粒の雫を、溢れんばかりに大きな瞳から垂れ流す。
そんな彼を見て、ソフィア様は左手を前に突き出し、手の平をジャックと燃えるドレスに向けた。
「ちょっと乱暴なことになるけど、ごめんね」
そう一言添えると、手の平から凄まじい勢いの水が出た。これが魔法か……。暗唱などせずとも、自分の意のままに水を操るソフィア様は美しく、そしてかっこよかった。
ドレスの火は消え去り、ジャックとその周りの床は水浸しになってしまったが、仕立て屋が灰にならなくて、本当に良かった。
しかし、それ以外のドレスなどには一切水滴はついておらず、ソフィア様の能力の高さを見せられた気がした。
「あぁ……、うぅ……」
言葉にならないジャックは、先ほどまで燃えていたドレスを胸に抱えて、泣きじゃくってしまった。大切なものを抱きしめるように、親が子を抱きしめるように、優しく、強く、抱きしめていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
彼は、何度も何度もそう唱えていた。もしかして、ジャックが何かいたずらをしてしまったのか? とも考えたが、そんなことをするような子には見えない。
「ジャック、怖かったわね。ごめんなさいね、水をかけてしまって。体は大丈夫かしら」
「ソフィア様、ごめんなさい……。ドレスが……」
「いいのよ、ドレスは残念だけどまた作ってもらえるから。それよりも、貴方の体と命の方が大切」
ソフィア様がジャックの手を握りながら話していると、店の入り口の方からテイラーさんの声が聞こえてきた。
「何があったんじゃ? みんなこんな奥まで来て……」
その言葉を聞いて、ジャックは握られた手を振り払い、テイラーさんの元までドレスを持って行った。そして彼はまた、憑りつかれた様に謝るのだった。
「ごめんなさい、テイラーさん、ごめんなさい、僕、僕……」
「ジャック、謝らんでもいい。悪いのはわしじゃ。それよりもお主とお嬢ちゃん達が無事で何よりじゃ」
「でも、でも……、せっかく直したドレス……。ソフィア様の、ドレス……」
「大丈夫じゃよ。ドレスはまた、作ればよい」
「うぅ……」
「2階で少し休んできなさい」
「はぃ……」
テイラーさんは焼き焦げて、水浸しのドレスを彼から奪うと、またあの大きな手でポンポンと頭を撫でて、背中を優しく押した。
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