第九話 欠陥でも短所でもなく、それは個性
「貴方自身が貴方を認めてあげなくてどうするの……」
絞りだしたような声でソフィア様は語り始める。私の両頬に添えられた手は少し震えていた。
「これは私の価値観だけど……。私はこの世界に、必要のない人なんていないと思っているの。ノア、貴方も例外じゃない。この世界に魔法を使えない人はきっといない。それによって不便なことや辛い思いもするでしょう。だからと言って貴方が欠陥品だとかそんなことはないのよ」
ソフィア様の言いたいことや伝えたいことの意味は理解できても、納得ができない自分がいる。何故か腑に落ちないのだ。
ただし、そう思ってしまう理由はなんとなく分かっている。それは、天上界で受けた暗示や呪縛が、私の価値観を固めてしまっているのだ。
だけど、ソフィア様の考え方を受け入れたいと思っている自分がいることも確かで……。
「今すぐにソフィア様の価値観を完全に理解することは難しいかと思います。だから、私はまた同じように自分を欠陥品だと思うことがあるでしょう。毎日この魔法装置を見るたびに思うでしょう。でも……、自分を好きになりたい。ソフィア様の瞳に、こんな醜い私を映したくない。それらに嘘はないのです。だけど、どうしてもその考え方から抜け出せないのです」
少しの沈黙の後、ソフィア様はやはり悲しい顔をされた。
「そう。そうなのね……。分かったわ。ただ私が伝えたかったのは、みんなが特別な存在なんだってことだから。それだけは頭の片隅にでも置いておいて」
「分かりました……」
「はいっ! じゃあ、この話は終わりね。楽しい話をしましょう!」
そう言ってソフィア様は両手を胸の前に合わせると、表情が切り替わってニコニコと私の顔を覗き込む。長い前髪の隙間から、エメラルドグリーンの瞳がちらちらと見える。
「楽しいこと、ですか?」
「そう、楽しいこと! 明日一緒に中央都市へ行って、服を見に行きましょう!」
「服はたくさんもらいました……。これ以上は……」
私はさっきまでの重い空気をうまく切り替えられずにいる。
「これじゃあきっと足りないわ! もう少し実用的なものも揃えた方がいいし、私のドレスのお直しも終わったようだから、一緒に来てくれない?」
「わかりました……」
私が承諾すると、彼女は私の手を引いて、私の部屋の扉を開ける。
「ご飯でも食べましょう。お腹がすいちゃったわ」
月光が彼女の頬にある涙の跡を浮き出した。
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