仕立て屋に潜む悪魔は繊細
第一話 初めての朝とテイラー
初めてのベッド、初めての部屋、初めての服。
すべてが新鮮で、あまり熟睡はできなかったが、目覚めは良い。
カーテンの隙間から除く光は、ゆらゆらとうごめいている。
「さぁ、起きよう」
勢いをつけてベットから飛び降り、朝の支度をする。まだ仕事用の服がないため、昨日見繕ってもらったドレスを手に取る。
繊細なレースや、シルクを使用しているのだろう美しい布地を眺めながら、昨日の出来事を思い出し、電気をつけるためのボタンに触れる。が、うんともすんとも言わない。ただただ、ボタンのひんやりとした感覚だけが私の手を刺激する。
「ソフィア様を起こしに行かないと……」
誰も見ていないのに、私は気にしていないかのようなそぶりをする。そうすることで、自分自身に暗示をかけているのかもしれない。
私は気にしてない、と。
自分の部屋を出て、すぐ目の前にある階段を上る。階段を上ったすぐにソフィア様の部屋があり、軽くノックをして声をかける。
「おはようございます、ソフィア様」
「おはよう、入っていいわよ」
その声を聞いてひんやりとした金属のドアノブを握る。
そこにはすでに準備を済ませたソフィア様が窓際で本を読んでいた。
「も、申し訳ございません。遅かったでしょうか」
昨日、伝えられた時間に来たはずだが聞き間違えていたのだろうか。
「ふふ、大丈夫よ。私が勝手に準備していただけだから!」
「そ、そうですか?」
「それに、昨日は疲れていただろうし、ゆっくりしてほしくてね」
彼女の優しさを嚙みしめていると、呼び鈴のような音が聞こえた。
「あ、来たわね」
「来た?」
「そう、仕立て屋さん」
ソフィア様は私の手を引きながら玄関へ向かう。
「久しぶりじゃの、お嬢ちゃん」
「お久しぶりです、テイラーさん」
玄関先には少しふくよかなおじさんがいた。ただ、人相に性格がにじみ出ている典型のような人で、とても優しそうな人だった。目じりには笑いシワができており、鼻の下には髭を蓄えている。
「初めまして、お主が天使のノアか」
「あ、は、初めまして」
「わしはテイラー。仕立て屋をやっておる。ソフィアの嬢ちゃんが常連じゃから、また会うことがあるかもしれん。よろしくの」
「はい、よろしくお願いします」
前髪からチラッと視線を合わせながらあいさつを交わす。
「じゃあ行くかの」
私はあまり状況を理解できないまま、2人に馬車へ乗せられた。
今このお城にはメイドも執事もいないので、テイラーさんが馬車で迎えに来てくれたらしい。
「ど、どこへ行くんですか?」
「ふふ、仕立て屋さんよ」
口元を綺麗に隠しながら彼女は微笑んだ。
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