第七話 神は人間界でも試練を与え続ける

 前髪の向こう側は思っていたよりも優しい世界なのかもしれない。

 

 あんなに人の目が怖かったのに、ソフィア様になら見てもらいたいと思ってしまう自分がいる。


「この服は貴方が使って。それに、同じサイズだったら、これとこれとこれと……」


 ソフィア様は様々な色、いろいろな形のドレスやそれ以外の服を近くのソファに置いていく。


「そうだわ! 気に入ったものは、あなたの部屋のクローゼットへ入れておくといいわ!」

「わ、分かりました……」


 だけど、私の部屋ってどこになるんだろう……。


「あぁ、私ったら舞い上がりすぎて、貴方の部屋の場所も決めていなかったわね……」


 そういうと、ソフィア様は衣装部屋の扉を開ける。まだ夕日が落ちきっていない、美しい廊下へ2人で出る。


「ここ、無駄に広いから沢山部屋があるの。私の部屋は3階で、ここは2階なのだけど、3階に行くにはあそこに見える階段しかなくて……」


 ソフィア様は部屋の場所を説明してくださる。なんだか胸が高まるのを感じる。


 これは、この世界での生活が楽しみだということ以上に、ソフィア様との生活が始まるのだという楽しみが勝っているのは自分でもわかった。

 

 先ほどまで窓から差していた光が急に薄くなり、少しずつ夜を感じさせる。


「少し暗くなってきたわね。そこに魔力装置があるから、そのスイッチを使って電気をつけてくれる?」


 指をさされたのは、廊下の壁に設置されたボタンのようなもの。先ほど、ソフィア様が暖炉の火をつけるときに使っていたものだ。そのボタンから天井に向かって、細い線のようなものが出ており、廊下の電球に繋がっていた。


 これを触るか押すことによって、恐らく電気がつくのだろう。ソフィア様も軽く触れただけのように見えたので、見よう見まねでボタンを触る。


「あれ?」


 ヒヤッとした感覚が私の指先に残るだけで、一向に電気はつかない。もう少し強く押すべきだったのだろうか。


「……つかない」

「あら、壊れたのかしら?」


 私の反応を見たソフィア様は、右手を顎に置きながら、ゆっくりとボタンの前まで来てくださった。


「私の使い方がおかしいのでしょうか?」

「初めて使うのなら戸惑うわよね……」


 ソフィア様は私が触っても反応しなかったボタンに軽く触れた。


 少し時間が経つと廊下の電球は、ついたり消えたりを繰り返し、数秒したら点灯した。


 ソフィア様は少し眉を下げて微笑んだ。


「少し、壊れていたみたい」

「そう、ですか……」


 ソフィア様の困ったような微笑みは、故障していたからなのか、それともそれ以外の理由があるのか……。


「それで、貴方の部屋だけど、この3階に繋がる階段に近いこの部屋はどうかしら……? 少し片づけないといけないけど」


 そう話しながら、金属のドアノブをひねる。


 しかし、私は部屋の中を見るよりも先に決めていた。ソフィア様の部屋と近い、この部屋がいいなと。


 少し薄暗い部屋。扉の近くの壁にあるボタンに触れる。


 やはり電気はつかない。


 やっぱり、気のせいではなかったのだ。


「ソフィア様、私は魔法が使えないみたいです」

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