第二話 堕天使は愛に飢えている

「あの、私、悪魔なんです!」

「え? 悪魔?」

「いや、間違えました、天使なんです!」


 目の前にいるソフィア様は、悪魔と言おうが天使と言おうが、驚きのあまり硬直されている。先ほど貸してもらった、少し大きいカーディガンの袖を巻き込み、手を強く握る。


 人間界に来ても私はまた、天上界にいた頃と同じ扱いを受けてしまうのではないか……。そう思うと血の気が引いた。


「状況が理解できないけれど、貴方は天使なのね……!」

「あ、はい……」


 硬直していたソフィア様は状況をようやく飲み込めたのか、お顔がゆるんでとても嬉しそうにしてくださった。なぜこんなにも喜んでくれるのだろうか。私は不思議で仕方がなかった。


「あの、ソフィア様。私は天使ではありますが、落ちこぼれの天使です。なので、特別な力が使えたり、何か願いを叶えられたりだとか、そういったことはできません」

「そんなことしてもらおうなんて思ってなかったわ! それよりも貴方、天上界から来たのであれば、ここに家はないわよね?」

「あ、な、無いですが……」


 そう伝えると、彼女はさらに喜び、子供のように飛び跳ねていた。


「何がそんなに嬉しいのですか? 私がいることで、ソフィア様のメリットはございません。むしろデメリットの方が……」

「メリットしかないわよ!」


 かぶせ気味に言葉を放ち、目を輝かせて私の手を取るソフィア様。彼女の体温がじんじんと伝わってくる。


「まぁ! 貴方、体が冷たすぎるわ! 早くお城に入って温まりましょう!」

「いや、だから……! 私は貴方にとってデメリットしかないんです……。私は堕天使なので、人間と同じ能力、もしくは人間以下の能力しかありません。だから、ここでお別れ……」

「私といたくないの?」


 目を潤ませて、首をかしげるソフィア様。


「え、いや……。そういうわけではなくて……」


 私がこのお城に入ってしまったら、きっとこの城から出たくなくなってしまう。ソフィア様が私にこんなに優しくするから、私はきっとソフィア様に依存してしまう。そんなことになってから、ソフィア様に「出ていけ」と言われたらきっと立ち直れない。今度こそ私は自らの命を絶ってしまうかもしれない。


「私は天上界で、お母様とお兄様以外に優しくされたことがありませんでした。だから、ソフィア様にとっては当たり前の優しさが、私にとってはあまりにも辛いのです。もしもここで一緒に暮らすことになったら、いつかお別れが来る。それを想像するのが辛いのです」


 自分で話しながら、目の奥から鼻の先まで熱くなるのを感じる。ソフィア様の姿が少しずつ滲み出す。


「そうなのね。辛いことをしてしまったのなら謝るわ。でも、一つ言えることは、貴方を私の意志で追い出すなんてことはしない。貴方がこの家を出るのは、貴方の意志で出るときだけよ」

「すみませんが、私はその言葉を素直に聞けるほど、ピュアではございません」


 いつからだろうか、私が周りを信じなくなってしまったのは。


 いや、考えてもむなしくなるだけだ。産まれてからずっと、私は虐げられてきた。だから私はこんなにも可愛げがなくて、疑い深いのだろう。

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