下) KKKO

わたしと葉月りりはクラスが違うからなのか 学校で会うことはあまりなかった。


でも、なぜか公園では必ずといっていいほど、つまり、ほぼ毎日、わたしとリリは会っていた。

いつのまにか わたしは彼女を「リリ」と呼び 彼女はわたしを「ユノ」と呼んだ。


学校帰りに制服姿で、二人でベンチに並んで座り たわいないこと、たとえば宿題が多すぎる とか 持久走が嫌だ とか 先生が理不尽だ とか オススメのマンガのこととかを語り合っては時々怒って 大概は笑い転げた。


それから 一緒にブランコを漕いだ。

小さく漕ぎながら喋ったり、小学生のように大きく立ちこぎするのも気持ちよかった。



「ユノは 何でわざわざ遠回りして帰るの?」

わたしの家が 高校の正門側にある5階建ての社宅だと言った時 リリはブランコを小さく漕ぎながら聞いて来た


「ん?どういう意味?」

なんか 家に帰りにくい理由があるのかなあって?」

「あははは 無い 無い そりゃあ ママはうるさいけど」

「そか よかった ゴメンね 変な事聞いて」


わたしが笑いながら答えると リリが真面目な顔をして謝った。

リリは私の事を心配してくれていたらしい。

わたしは 嬉しいような 申し訳ないような気持ちになった。 


「遠回りしているのは リリに会えるからだよ」

これは 本当。

ポカンとしたリリに もう一つの理由も告げる

 

「それから もう一つ …好きな人に会えないかなあって…あ ナイショだよ」

「好きな人?いるの?」

「ヒミツだよ。好きって言うか…ホントは分からないんだ… 前にさ あの門の所をシュって飛び越えた人を見て 素敵だなあって …… でも もう 顏も忘れちゃった…でも 会いたいなあって思ったり… よく 分かんないんだよね 自分でも。 でも 期待してこっち回って帰ってるんだ」


通用門を指さして リリに説明する わたしの気持ちも説明したいけれど 言葉にしようとしても やっぱり よく分からない。


「これって”恋”なのかなあ?」


ふと漏れたのは わたしの本音、なのかもしれない。

俯いてブランコを漕ぐわたしに 隣でブランコを漕ぎながらリリが言う


「そっかあ いいじゃん いいよね うん いいよ ほら 言うじゃん ”命短し恋せよ乙女”って」


そっか いいんだ?

顔を上げてリリを見るとリリがニカッと笑って言った

「略して IMKO」


リリが ブランコを止めて


「いのち みじかし こいせよ おとめ」

言いながら  足で地面に書いた文字は歪んでいて

I  MkO と読めた


「ぷぷ 変なの イモ?」

笑うと リリも笑った

「え? ぷははは そう読めちゃうね ははは」


それから 

「もおお~」

っとほっぺたをふくらませて 足でIMkOを消した。

それから リリはブランコごと後ろに下がって、大きくブランコを漕ぎ始めた


わたしも同じくらい大きくブランコを漕いで 言う


「ねえ リリ、こんなのでも恋なのかな?顏も分んないんだよ?

わたし、恋したいだけじゃないのかな? 変じゃないかな?」


リリが 私の声に負けないくらいの声で答える


「変じゃなーい! 我々は立派な乙女なんだから! いいんだよ、それも恋!

 えーっと だから 待って えーと   KKKO! だね!」


リリが ブランコを急停止させて KKKO と また足で でも今度は丁寧に書いた

同じように ブランコを止めた私がそれを隣から覗き込む

「KKKO? こっこっこお? 今度はニワトリ?」

ふざけるわたしに


「ノンノン ノン」

リリは 人差し指を左右に振ってから サムズアップして言った


「恋に 恋でも 恋せよ 乙女」


決め顔を作るリリ

そんなリリに向かって 


「K K K O」


と言いながら わたしも精一杯 決め顔を作ってサムズアップした。




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恋に恋でも 恋せよ乙女 TO BE @tobetakako

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