中) 遠回り

燃えるゴミは月と水。

燃えないゴミは金曜日。 

ゴミ出しはわたしの仕事。

どこの社宅も社宅の駐車場の脇が収集場所だから簡単なお手伝いです。《まる》


わたしは毎回ゴミ出しの後にそのまま公園まで行ったけれど、誰も”ヒラリと門を飛び越え”てはくれなかった。

もう一度 門を飛び越えてくれないとアナタの事、忘れちゃいます。



そうそう 通学路は覚えました。

あの日の帰る時、注意しながら歩いたからどこで道を間違えたのか分かった。

高校が見えたら手前を曲がらなくちゃいけなかったんだ。

手前を曲がれば ママと歩いた高校の正門の前をる道だ。

真直ぐ行って グランドと通用門の横を通った場合は 公園に向うの道を曲がれば

中学への道に出られる。もちろん遠回りになる。



***


4月某日、入学式が無事に終わり わたしは中学生になった。

稲葉西中学校 1年A組 25番。

最初の席順は出席番号順だった。

ラッキーなことに 後ろの席の向田君は休み時間になっても席に居て、話しかけてくれたし 隣の藁科さんもその話に加わってくれた。

たぶん トモダチになってくれたと思うんだ。

右も左も分からない転校生には特に”お友達”は大事です。


健康診断 学校案内 部活紹介 新一年生の4月は忙しい

それでも わたしは毎日 遠回りをして下校する。

え?登校は遠回りしないのかって?

登校はね 中学生の方が早いみたいで まだ高校生は登校してないんだ。

何回か遠回り登校したから分かっちゃった。


わたしは 毎日 遠回りして高校の通用門の前を通るけれど 相変わらず”カレ”に遭遇することは無い。

赤いジャージ姿の人は大勢通用門を通るけれど ちゃんと通用門の門扉を開けて入って行く。



向田君が教えてくれたけれど 稲葉西中の学区は 高校の手前、正門の前の道までなんだって だから下校時に遠回りをすると一人で歩いて帰る事になる。

つまり 帰りに公園を突っ切りながら 横目で高校の中をチラ見しながら歩いてもクラスメイトにはバレないということだ。


あの窓のあるプレハブは部室だったみたいで 練習着で出入りする高校生とかが見える事もある。

なんて 知っているわたしは ちょっとヤバイ人になっている?

そんなこと 無いよね?

でも ほら あの高校生の中に”ヒラリ”さんがいるかもしれないんだよ


わたしは今日も妄想しながら 公園の中を歩いていく。


あれ? 砂場でうずくまってる人がいる 同じ中学の制服の女子だ。

どうしたんだろう?



「あの…大丈夫ですか?」

「へ?」


隣にしゃがみながら声をかけると 

顏をあげた女の子は”へ?”って顔をしてから わたしの制服を見て”お”って顔になった。 

今 貴女とわたし ”あ 同中 同学年だ” って同じこと思ったよね?

だって 制服一緒で ネクタイが同じグリーンだもん。


その子は左手に持ったビニール袋をちょっと上げて明るい声で言った


「タバコの吸い殻拾ってんの 小さい子が食べたら危ないから」

「はあ…」


よかった 不調とかじゃないんだ


「じゃあ さよなら」

という訳にも行かないから わたしもしゃがんだまま辺りをキョロキョロしたけれど吸い殻は落ちていなかった。


「もう全部拾ったと思う」

「そっか…」


彼女は立ちあがって ベンチの横のゴミ箱にビニール袋を放り込んだ。

彼女が ベンチに座って水筒を取り出したのを見たら わたしもお茶を飲みたくなった。

だから 彼女の隣に座って水筒のお茶を飲んだ。


「何小?」

何回も聞かれた質問を彼女もしたから いつものように答える


「旭小 市外から引っ越してきたんだ」

「そっかあ 私 北小って言っても分んないよね 越境えっきょう入学なんだ」


えっきょうにゅうがくって何だっけ?

説明するように彼女は付け加えた

「学区が違うから 北小から西中へ入ったのは私だけなんだ」


「じゃあ 同じ一匹狼だね。あ わたし南柚野って言うんだ A組なんだけど…」

「私はC組 葉月りり《はずきりり》」


クリクリの髪 小柄でぽっちゃりしているりりちゃんは 可愛らしい。

この子なら 図書館での出会いも有るのでは?なんて思っちゃった。

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