第2話 ノ、ノーカウント……
「まぁ、とりあえず上がってくれ」
「はい、お邪魔します……」
あの後、裏世界からいつの間にか表、現実へと戻ってきた。
行くときも急で帰るときも急、これこそ摩訶不思議というのだろう。
そのあと、詳しく話を聞きたいのもあるがボロボロの小さな女の子をそのままにしておくわけにはいかず自分の家へと招いたのだ。
「ここが主様のお住まいなのですね……一緒に暮らしている方はいらっしゃらないのですか? その、私の正体がアレですので」
「あぁ、別に両親とも海外勤務だからここでは一人暮らしだから大丈夫だぞ。今日ほど一人暮らしでよかったと思ったことはないわ」
もしここに両親がいたら絶対に面倒になるのは目に見えていた。
というか今日起きたことをどうやっても自分じゃ説明する自信なんてなかった。
「えと、それで主様……」
「うん、ちょっと待とうか」
「いかがされましたか? 主様?」
「その主様って何なの?」
「見ず知らずの私を助ける慈愛と強さを持った益荒男、主と呼んで差し支えないかと」
鼻息をふんすといわせながらそう答える
「
なれない敬語のせいか言葉がうまく紡げずしどろもどろになってしまう。
「はい、ですが主様がそんなかしこまる必要ございません。どうか楽なようにしてください」
「あ、ほんと? じゃあそうさせてもらうけど主様は勘弁してくれない?」
「そ、そんな……
心なしか小型犬が落ち込んでいるイメージが頭に浮かび心が痛い。
「ち、ちがうちがう! 俺そんな大層な人間じゃない普通な感じだし、そう呼ばれると
「実際にそうでございますよ……?」
これはよくない。
この子には自己肯定も自信もほとんどないように見える。
いったいどういう扱いを受ければこんな子になるのかと思ったが、すぐにろくでもない扱いを受けていたのだろうという答えが自分の中で出る。
頭に血が上りかけるが
「
「ひゃぅ! あ、主様?」
「お前はすげぇやつだよ、だからじぶんを卑下するな」
「な、なにを? それにわたしはすごくなんか……」
「いや! お前はすごい奴だ」
ゆっくりと力強く諭すように言葉を紡いでいく。
「お前は初対面の自分を助けてくれた俺をすごいと言っていたが、それはお前もだろ? お前も最初からずっと俺の心配ばっかりして最後まで自分のことを顧みらなかった」
「そ、それは……」
「お前は優しくて、そしてすげぇ強い奴だ。 そんなお前だったから俺も最後まで踏ん張れたんだ」
この言葉に嘘偽りなんかなかった。
よくみると
「それにお前、神様なんだろ? 神様ならもっとどっしり構えたらいいんだよ」
「わ、わかりました。 主様……いえ、
「ん~~もう一声!」
「え、ええ!? えと、その……
見ている分にはかわいいがこれ以上は
「いいね、バッチリだ。 それで何から聞こうかな……」
正直、聞きたいことがありすぎてなにを聞けばいいのかわからない。
そうして悩んでいると
「でしたら私が説明いたしますので何かご不明な点があればご質問なさってください」
「あっはい」
「あらためて自己紹介をします。 私の名は
「鬼神……その言っては何だが鬼神と聞くと力が強かったりするイメージがあるんだが……」
「お気遣いしなくても大丈夫です。実際に私は神としての力を持ち合わせていないのですから」
「神としての力? そんなの普通に持っていそうな感じがするんだが」
自分の神としてのイメージが全知全能的な感じなのですごい違和感があった。
「神というのは長い時間の流れの中で神へと至るのです。あるものは長年生きた大木が山神として昇華したり、人々の信仰によって神が生まれることもあるのです」
「へー、じゃあ
感心しながらそう言うと
「私はどうやら父が鬼人、鬼と人の狭間にいるときに生まれたらしいのです。その後に父は鬼の神へと昇華したのですが私はその前に休眠していて……正直、生まれてからすぐに休眠したようなものなので何の力もないのです。目が覚めたのはここ最近なので経験らしいものも詰めず……逃げるだけでした」
「休眠……というのは?」
「すべての神がずっと活動できるわけではなく一定周期に人間のように眠る時期があるのです。神によっては数年から数百年眠る神もいます」
「か、神様も寝るのか……ん? さっきの話聞いてると休眠している間は神としての昇華ができないの?」
「はい、その通りなのですが……父が死に、その後に行き場を失った何かが生まれたのです」
「何かってなんなんだ?」
「わかりません、ただその何かは行き場を失い、そして休眠状態の私の中に入り込み私は神へと昇華されてしまったのです」
正直、
それにこの子を疑う真似はしたくなかった。
「それで、えーと代理人とかあの拳は一体?」
その質問をした瞬間、
「そ、そのアレには理由がありまして、えと、その……あぅ」
「どうかした?」
「も、申し訳御座いません! あの様な状況とはいえ、そ、その接吻を急にしてしまうだなんて……」
イカン、思い出した、いや、思い出してしまった。
自分からした訳ではないが子供とキスしてしまったなんて普通に社会的死である。
急いで誤魔化さなければならない。
「
心なしか
「…………ノーカウントなので御座いますか?」
コレはどう答えるのが正解なのだろうか?
この娘はなんの答えを期待しているんだ。
「えーやっぱりノーカン……」
自分の言葉を言い切り終える前に紅葉はショックを受けた様子で泣きそうになる。
その様子に慌てて別の言葉を口にする。
「いや、緊急時とは言えやっちゃたんだからカウント……」
またもや言い切るまでに
今度は頬をぷっくりと膨らませて、顔を赤くしながらうつむいてしまった。
一体どういう感情が出たらそんな風になるのか自分にはわからなかった。
YESかNOか、二つに一つ、どちらを選べばいいのか分からないので最終手段に出ることにする。
「
最終的に出した答えは丸投げ!
恐る恐る
「しょ、しょうですか……そうでふね、好きに捉えましゅ」
今にも湯気が出そうなくらい顔を真っ赤にしながらそう答える
感情が昂ってるせいか舌が回っていない。
しかし、
ノーカウントか、それとも……。
自分にはそれを聞き出す度胸は無かった。
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