【ラブコメ】【バトル】普通系高校生と鬼神少女

えちだん

第1話 出会い

 普通とはなんだろうか?

 多分、時代や世論、様々なものが空っぽの自分という名の容器にぎゅうぎゅうに詰め込まれて作られたものが普通なんだと思う。

 世の中自分という物はなくてありふれた常識や世間体でがんじがらめになって操り人形みたいに自分を含め、みんな行動しているだけなんじゃないかと思う。

 こんなことを考えてしまうのは自分がいわゆる思春期という年齢に差し掛かったからなんだろうか?

 大人になればこんな考えもくだらないと一蹴する様になるのだろうか?

 そんなことを考えながら俺、神威 鋼カムイ コウはいつも通りの通学路をいつものように登校していた。

 毎日変わらない日常を皆崩そうともせずに行動しているし、自分もそうしている。

 だから、普通というものが終わるんだとしたらそれは普通じゃない何かが現れた時だろう。


 今、目の前でボロボロの着物を着た少女と羽の生えた女性が飛びながら相対している光景は普通ではないだろう。

 

「これであなたも終わりね。汚らわしいあなたが神に連なること自体がおかしな話だったもの。もう少し利巧だったら長生きできたかもしれないのにねぇ」


 そういいながら翼の生えた女性はボロボロの少女にゆっくりと詰め寄り始める。


「……好きで、好きでこんな風になった覚えはありません」


 少女は目をつむり、うつむきながらそう答えた。


「おだまり! なんであなたみたいなやつが…」

「あのーすみません……」

「「!?」」


 二人のやり取りに割って入って話しかける。

 何かの撮影中かなにかは知らないがあまり広くない道の真ん中でされては通り抜けられない。

 二人には申し訳ないが適当に謝って学校に行ってしまおう。


「ちょっと通りたいんですけど通ってもいいですかね? このままだと学校に遅刻しちゃうんで」

「わ、私たちが見えるのですか?」


 少女は驚いた顔をしながら聞いてくる。


「……? はい」


 あたりまえのことを聞かれたので当たり前のように返答した。

 もしかしたらこの二人はかなりやばい奴らなのではないのだろうか、頭が。


「ウフフ、フハハハハ! まさか、まさかに出会えるとは! なんて運がいいのかしら!」


 急に翼の生えた女性が大声で笑い始めた。

 今更だがどうやってこの人は浮いているんだ? この辺に人ひとり吊るせそうな高い建物はないのだが。


「は、早く逃げてください!」

「は? 急に何を……っ!?」


 少女の意味不明の問いかけに答えるために少女のほうに首を向けると頬に鋭い痛みが襲った。


「急に動くと殺せないじゃないの。じっとすることもできないなんて人間はほんとだめねぇ」

「……は?」


 自分の頬を触れると血が流れているのが分かった。

 傷があると理解すると痛みが徐々に強くなっていく。

 頬の痛みが物語っている。

 この普通じゃない光景は、作り物フェイクなどではなく現実リアルなのだと悠々と語っているかのようだった。

 それを理解した瞬間、無意識に少女を抱きかかえて走り出した。


「ひゃぅ! きゅ、急に何をなさるのですか!」


 少女はか細い声ながらも少し怒気を交えた声色で問いかける。


「なにって逃げるんだよ! あいつが何なのかしらねぇけどやばい奴ってのは馬鹿でもわかるわ!」

「そ、そうではなくてなぜ私まで……」

「子供をあんなところに放っておけるかい!」


 少女の質問に答えながら全力で逃げながら答える。


「人間~~~! 調子に乗るんじゃないわ!」


 翼の生えた女は空を飛びながら追いかけてくる。

 その速さはこちらが走るよりも速くこのままでは追いつかれそうだ。


「……私をお捨てください」

「はぁ!?」

「私があの者の気を引きます。あなたはそのまま逃げれば生き延びれるやも知りません」

「ふざけるな!」


 少女のばかげた提案を一蹴する。


「俺はなぁ……! 子供一人見殺しにして平気でいられるほど強くないんだよ……! だから子供は黙って助けられてろ!」


 息も絶え絶えになりながらそう言い放つ。

 そうこうしているといつの間にか知らない場所を走っていた。

 あたりは夕焼けに照らされたかのように赤くなっていた。


「なんだ? 急に知らない場所に出たぞ!? まさか迷ったか!?」

「…迷ってなどいません、ここは裏の世界です」

「裏の世界?」

「私たち異形のものが重なり合うと世界が反転し、ここ裏の世界へと足を踏み入れるのです。あなたに分かりやすく言えば神隠しでしょうか?」

「…君は一体?」


 謎の少女のただならぬ雰囲気を感じ取り自然と口が開いた。


「私のことはよいのです。今はあなたのこと先決です。あなたは目を持つものなので私の問題に巻き込んでしまいました……ですが必ず私がお家にまでお返しいたしますのでご安心ください」

「いや、帰ることも気になるが目を持つものって何なんだ?」


 先ほどの翼の生えた女性? も言っていた目を持つものが気になって質問する。


「目を持つものは私たちの姿をとらえ、干渉することができる者のことです。その者の心臓を食らうことで現世に君臨、実体化することが可能なのです」

「……つまり霊感みたいなものか?」

「ぇ、えと少し違うのですが」


 少女は少し困った顔をしながらそう答える。


「そんなことを知ってるなんていったい、君は……」

「わ、私は……」

「私が答えてあげるわ! 人間!」


 答えずらそうにしている少女の言葉を遮り先ほどの女が声を張り上げた。


「そいつはねぇ! 鬼人の子なんだよ!! それもとびっきりの人食い鬼さ! 一度に何千という人間を食らい、神へと至った鬼神! そいつがくたばってただ血を引いているからというそれだけの理由で小鬼が神に昇華しやがって……! 生意気なんだよ! お前!」


 その言葉を聞くと少女はただ無言でうつむく。


「それで? この子は何をしたんだ?」

「あん?」

「聞こえなかったのか? 阿婆擦れ、この子はなにかしたのか?」

「に~ん~げ~ん~! 貴様ごときが何様のつもりだ~!」


 目の前の女は怒りをあらわにするが無視して少女の肩をつかみ声をかける。


「お前はひどいことされるようなことしたのか?」

「……していません、なにも悪いこと、しておりません」


 少女は顔を上げてそう答えた。

 必死に目にたまった涙をこぼれないようにしていた少女だったが、あふれ出てくる涙の量が多すぎて涙が頬をボロボロと伝い零れ落ちる。


「聞いたか! 親の咎を子供に押し付けるのはやめろ!」


 少女からはなれかの女に向き直りながら声を張り上げる。


「どうでもいいんだよ! そんなこと! ただ無能が私よりも位が上なのが納得できねぇんだよ! 無能なら無能らしくせめて私の糧になるのが筋ってもんだろうが!」

「この野郎! ただの逆恨みじゃねぇか! 他人の足引っ張るくらいしかできねぇてめぇのほうが無能じゃねぇか!」

「だ~ま~れ~~!」


 女はそう言いながら背についた翼を高速で振ると何かが少女めがけて飛んできた。

 とっさに少女をかばうために女に背を向けて抱き占めると背に鋭い痛みとともに熱くなった。


「がっ!? なにしやがった?」


 女が翼を動かす度にブスブスと背中に何かが刺さる度に鋭い痛みが襲ってくる。


「もしかして、羽を飛ばしているのか!?」


 どういうからくりかは分からないがこのままここにいるのはまずいと感じ少女を守るように抱えながら逃げようとするがうまくいかない。

 羽は背中のほかに脚にも刺さっておりうまく走れないのだ。

 自分がそんな攻撃に晒されて生きているのは女がもてあそんでから殺そうとでも考えているからなのか急所に羽が刺さっていないからだろう。


「私を離してくださいっ! このままでは死んでしまいます! 私が盾になるのでその隙に何とか逃げてください!」


 そういいながら少女は腕の中でバタつくががっちりとホールドした腕を解くつもりはなかった。


「お前が一人で逃げるっていうんならこの手を離せるんだがな」

「そ、それは……」


 そういうと少女は困った顔をして言葉が詰まってしまう。

 適当に噓をついてしまえばいいのにそれをしない少女は真面目で優しい子なのだろう。

 だからこそこの子を放り出すという選択肢は自分にはなかった。


「ほらほら、あとどれくらい持つかしらねぇ? 人間ごときが私をコケにしてただで死ねると思うなよ!」


 女の羽が体に刺さるごとに体が重たくなり動きは徐々に遅くなり、次第には足を引きずるような状態になっていた。

 そんな状態でも女の射線から少女を隠すように抱きかかえた腕の力は鈍らず、足はゆっくりとだが動き続けていた。


「な、なぜあなたはここまでするのですか! 見ず知らずの小娘を助ける義理なぞないでしょう!」


 少女は泣きながらか細い声で問いかける。


「さっきも言ったけど子供見殺しにできるほど俺は強くねぇんだよ……あと普通だろ?」

「ふ、つう……?」

「そ、子供を守るは普通だ」


 当たり前のことを当たり前のように答えると少女は少し驚いた顔をした後に笑みを浮かべる。


「お名前を伺ってもよろしいでしょうか…?」

「俺か? グッ! 俺の…名前は神威かむい神威鋼かむいこうだっ」


 飛んでくる羽の痛みに耐えながら自分の名前を教える。


神威鋼かむいこう様、申し訳ございません、目を持つものの説明に話していないことがまだあるのです」

「? 別にいいよ、それより今からでも一人で逃げ……っ!」


 突如少女にキスをされて口をふさがれる。

 急な不意打ちのせいで足が止まってしまう。


「ぷは……汝、神威鋼かむいこうを我が代行者として命ずる。その血と肉は我が物であり、其の身は我が血肉と交わり一つとなりて、わが身に降りかかる厄災を一切合切を打ち滅ぼせ。我が名………紅葉くれはの名のもとに命ずる!」


 目の前の少女、紅葉くれはがそういうと自分の体が光に包まれて傷がすべてふさがっていく。


「ちょ、急に何をっ!? ていうか傷がなくなって!?」

「な、そんな馬鹿なことを本気でしやがったっていうのか!?」


 自分も翼の生えた女も驚き身じろいている。


「すいません、私の勝手であなたを代行者にしてしまいました。えと、代行者というのは……」

「おい、ゆっくり説明している時間はなさそうだぜ」


 そう言うと自分と紅葉くれはは翼の生えた女に目を向ける。

 女は肩を震わせながら怒りをあらわにしていた。


「くそったれが! このガキが! どこまで私の邪魔するってんだよ!? クソクソクソ!!! もういいから二人とも死んでろや!」


 そういうと女は翼を羽ばたかせこちらに向かってくる。


「聞いてください、今あなたには鬼人の加護が憑いています! あなたの思いをこぶしに込めて打ち込めば力はきっと答えてくれます! 信じられないかもしれません、けど」

「おーけー、まかせろ!」


 紅葉くれはの言葉を信じ、食い気味に返事をしながら守るように前に出てこぶしを構える。

 頭の中でいろいろな考えがグチャグチャになりながらも思いを込めるために考える。

 こぶしに思いを込めるやり方はわからないがぶっつけ本番でやるしかない。


 ---後ろにいる少女は危機的状況にも拘らず他人を優先してしまうほど優しい少女だ。

 --その少女は何の咎もないのに目の前の女に泣かされている。

 -普通に考えてこんな優しい少女がこんな目に合うなんておかしいだろ?


 それでも翼の生えた女は恐ろしい形相でこちらに詰めよってくる。

 後ろにいる紅葉くれはという少女と比べるとよっぽど鬼のような形相だ。


「死ぃいいいねえぇええ!!」


 翼の生えた女は叫びながら凶爪を振り向けた。

 不思議と恐怖はなく構えた拳が熱くなっているのを感じる。

 


「消えろ、普通でいるにはお前は邪魔だ」


 そういい放ち、拳を女に振りぬいた。

 拳は女を打ち抜き、女はこの世のものとも思えない悲鳴を上げ体が徐々に消えていきその場には紅葉くれはと自分の二人だけになっていた。


「終わったぜ、怪我はないか?」

「は、はい。あの、ありがとうございます」


 少女の声は相変わらずか細いがその声は先ほどと違い暗い声色ではなかった。


「まぁ、聞きたいことはいろいろあるけどとりあえずすることがあるな」

「え、えと、何をなさるのですか?」


 少女の質問に笑顔で答える。


「学校に今日は休むって電話しねぇとな」





 これは、普通の人間と普通じゃない鬼神の少女の物語である。

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