第3話 土下座するしか思いつかなかった

 あれから一悶着あったがお互いに一息入れたら落ち着いた。

 少し本筋から離れたが話を戻して紅葉くれはに話を聞く。


「そ、それでは代行者について説明させていただきます」

「は、はいお願いします」


 お互いに少しギクシャクしながら話を進めていく。


「目をを持つものについては少しだけお話しいたしましたよね?」

「あぁ、確か話してないことがまだあるってあの時言ってたな」


 目を持つもの、つまり自分は紅葉くれはや他の神様達を見たり触れたり出来るらしい。

 今こうして紅葉くれはと話せているのも自分が目を持つものという存在だからだろう。


「はい、目を持つものは私たち神々にとって最高の貨物となり得るのです。 一度、目を持つものの心臓を喰らえば短い時間ですがこの世に顕現することも出来るのです」

「心臓をか……ん? じゃあ紅葉くれは達に神様は他の人間達にちょっかいかけれないのか?」

「はい、ですがそれを可能にするのが鋼さんなのです。 あの輩も心臓を食らい顕現すれば人々を喰らい神に昇華しようとしたことでしょう」


 先ほどとは違い落ち着いた様子で二人とも会話する。


「そうか、それで代行者っていうのは何なんだ?」

「代行者は我々神々がこの世に顕現し干渉するためのもう一つの方法です。 祝詞を唱え契約を結ぶことによって目を持つものを自らの代行者にすることができます。 代行者とはその名の通り神の御業を代行するもの、異形の力を行使できる代わりに契約を結んだ神は力の大半を失ってしまうのです」

「え!? それって紅葉くれはは大丈夫なのか?」


 自分を代償にして結ぶ神々の契約、それを行った紅葉くれはを心配するが当の紅葉くれはは得意げな様子で胸を張っていた。

 その様子を見てあっけらかんとしてしまう。


「ふっふっふ、私はもとより力などあってないようなものですのでこの通り問題ありません」


 紅葉くれはの声は声帯があまり強くないせいか声量が小さく、抑揚もあまりない。

 そのせいか彼女の声だけを聴くと感情を図りずらかった。

 ちなみにいまわセリフと表情を見るに割と機嫌は良さそうだ。


「さてと、じゃあある程度聞きたいことも聞いたしお風呂入ろうか?」

「え、えとお風呂……湯浴みでございますか?」

「おう、でもまぁ紅葉くれはも疲れているだろうから今日はシャワーで済ましちゃおうか」

「ん、んぅ……こうさんがそれを望むのでしたら……」


 なぜか紅葉くれはは緊張の表情を見せながらもじもじしている。

 その様子を見て、紅葉くれはは人間の生活に疎そうなのでシャワーの使い方がわからないので緊張しているのかと自分は感じ取った。

 仕方がないのでシャワーの使い方を教えてやることにしよう。


「ほんじゃ、一緒にお風呂に行くぞー」


 そういいながら風呂の前、脱衣所に二人で入りシャワーの説明をするために風呂場の扉を開く。


「あ、あの、ふ、不束者ですが、よろしくお願いします」


 後ろからおずおずと紅葉くれはが話しかけてくる。


「ん? あぁ、まぁ行くところもないだろうし、こっちも助けてもらった側だからずっとこの家に居てくれてかまわないよ。 それにほら俺、紅葉くれはの代行者だし」


 自分の中では当たり前すぎてこの家に住んでいいということを明言するのを忘れていた。

 紅葉くれはを不安にさせてしまい申し訳ない気持ちになる。

 軽く心の中で反省しつつ後日紅葉くれはに謝るとして、ひとまず紅葉にシャワーの使い方を教えるために後ろを振り向いた。


「そ、その、経験はございませんが……」


 紅葉くれはは目をギュッとつむりながら服を脱ごうとしている。

 慌てて紅葉くれはの体を取り押さえる。


「ちょっと待って! 何してんの!?」

「ぇ? ぃ、一緒に湯浴みするのでは何のですか?」


 か細い声で不思議そうに答える紅葉くれは

 ここからしばらくお互いのすれ違った考えをすり合わせていく。

 その間、紅葉くれはは百面相とまではいかないがコロコロと表情を変えていた。

 その様子はかわいらしいが最終的には泣きそうになってしまい自分には頭を下げるしかこの場を収める方法が思いつかなかった。


「すまん! 紛らわしい言い方して本当にすまんかった!」

「ふ、ふふ、いいんです、気にしないでください……私が勘違いしたのが悪いのですから……ッグス」

「スマン! スマーン!!!」


 半泣きの鬼の少女と土下座する普通の高校生の同居生活が今始まるのであった。

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