3.Mine Warfare

 ―十年前 サハラ―




 砂漠の中を歩いていた。肩から提げたレール・ライフルの銃身を、燦々と輝く太陽が焼く。


〈ジャック、敵がもう一人行ったぞ!〉


 無線から流れる仲間の声。私はレール・ライフルを構え、レシーバー横の安全装置を外して周囲を警戒する。


「敵見えず...うおっ!」


 足元に小口径高速弾が着弾。白みがかった砂を舞い上がらせる。数十メートル先に、砂漠迷彩のBDUを纏った人間がライフルを構えていた。


「コンタクトォ!!」


 レール・ライフルの引き金を絞る。銃身内部のレールが生み出すローレンツ力により高速で射出された弾体は、寸分違わずに敵を貫いた。


〈T.E.C戦術部隊司令部より入電。敵勢力は数機のAFアームズ・フェースを投下した。直ちに撤退せよ〉


 前線司令の連絡が入る。生身と五ミリ口径レール・ライフルでは、AFには絶対に勝てない。なにせAFは〈最強の歩行兵器〉とされている。


 揺蕩たゆたう陽炎の向こうに、ティルトローター型の大型輸送機が見えた。灰色の機体から次々と投下される、色とりどりのAF。死は目前に迫っていた。




 仲間たちがAFの攻撃にさらされているのが見える。数人で寄り集まり、携行したレール・ライフルで弾幕を張るが、AFは強固な装甲で弾き返す。


 大きな炎を伴う爆発が上がった。AFの投擲型兵装・燃料急速酸化弾デトネーション・グレネードの攻撃だ。この兵器は卵状の外装で覆われており、内部の隔壁は大量の燃料と酸化剤を安全に隔てている。隔壁爆砕用の時限式信管を作動させると、設定した通りの時間に隔壁が破損。燃料と酸化剤が混合し、周囲の酸素を取り込みながら爆発する。


 投下されたAFは四機。いずれもデルタクティカル社の純正AFの改造機で、ライフルやショットガン、サブマシンガンなど、それぞれが異なる武装を選択していた。


「ジャック、見とれてる場合じゃねぇぞ!」


 仲間に肩を掴まれる。私たち少年兵部隊を率いる、最年長のヤガタ・ゴウだ。


「ヤガタ......?なんでここに...」


「なんでって、逃げるに決まってるだろ!」


「無理だよ、こっちにはAFなんていないんだ。逃げられっこない」


「逆に考えろ!デルタクティカルはAFを四機も出してきた。俺たちみたいな少年兵ガキに対して、そんな太っ腹なことするか?」


「じゃあ、この作戦区域に他の狙いがあるってこと?」


「そうだ。おそらく......」


〈君たち、伏せろ!〉


 ヤガタの声を遮るように、私たちの無線から声が発せられた。私とヤガタは互いの服にしがみつき、砂の上に同時に伏せた。頭上の空気を切り裂いて、硬質な何かが飛んでいった。


「え......?」


 私が驚いて顔を上げると、一機のAFが目に入った。「純白」の言葉が相応しい、真っ白な機体。光を跳ね返すようなどぎつい白ではなく、受け入れてしまうような透明な白。その機体は、右手に装備した五十ミリライフルを構えていた。


「ジョーカー......」


 ヤガタが呟く。


 ジョーカー。T.E.C専属の男性ウルフ。彼の操るAF「マーメード」のバランスの取れた機体構成は、あらゆる場所・戦術の戦闘を可能とする。


 彼の任務達成率は百パーセントで、単機で戦況を書き換える。まさしく〈最強〉のウルフであり、AFだ。


〈いやぁ、生き残ったのは君たちだけかい?災難だったねぇ〉


 彼は無線で話しながら、機体背部に装備した折り畳み式百二十ミリカノンを展開する。同時に片膝を砂上につけ、砲撃待機姿勢を取った。


〈今度はコイツを撃つから。気を付けてねー〉


 ヤガタと私は、再び顔を下げる。ほぼ同時に巨大な砲声が鳴り響いた。装弾筒付翼安定徹甲弾APFSDSが高速で飛翔し、進軍を続けるデルタクティカル部隊の一機を破壊する。途中で分離した装弾筒サボットが砂上に落ちている。


 マーメードは背面ブースターを吹かして加速し、敵機との間合いを一気に詰める。右手の大口径ライフルが火を噴くと同時に、サブマシンガンを持っていた敵機の上半身が吹き飛んだ。


 続けて機体を回転させたマーメードは、その動きで敵弾を避ける。ライフルを乱射した敵機に近接すると、左手のプラズマ・ブレードを起動した。超高熱の刃を数回振るうと、敵AFはバラバラに解体された。


 最後に残った機体がショットガンを向けるが、マーメードは意に介さず蹴りを入れ、ショットガンを弾く。武器を失い、慌てふためく機体のコックピットにブレードを突き立てた。


「すげぇ......」


 殺戮に近い状況を前に、目を見張るヤガタ。


 一瞬で四機のAFを葬り去り、無傷で夕日を背に立つ白い機体は、どこか悪魔じみていた。

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