4.Assault Lover
ティルトローター型輸送機の内部に鎮座した、白い
機体名称はバレルキャリー。T.E.C製の純正AFをベースに、一部をトール24規格の他社製パーツに換装した機体だ。武装は射撃兵装の優秀さに定評のあるデルタクティカル社製。四十ミリ口径のライフルと高出力型プラズマ・ブレードを装備している。
〈まもなく
ヘルメットの無線から、担当オペレータであるヘレナの声が聞こえる。
「作戦内容の説明がまだだが...」
〈実は私も聞かされていないの。依頼主クライアントはT.E.Cであることしか分からないわ〉
「......なんだか嫌な予感がする。報酬は払われるだろうか」
〈
輸送機後部のハッチが開き、鋭い太陽光が差し込む。コンソール上に指を滑らせ、背部と腹部にマウントしたパラシュートユニットの安全装置を外す。AFを固定するフィクシング・ワイヤーが解除され、機体の投下準備が完了した。
〈降下二分前...待って、地上になにか...〉
ヘレナが地上に異常を発見したらしい。より一層気を引き締めると、ヘレナの冷静な声音こわねは悲鳴にも似たものに変わった。
〈地上にAFを確認!レーダー照射を受けているわ!〉
「なに!?まずい、今すぐ投下しろ!」
〈でも......〉
「そうすれば幾分かは軽くなる。早く投下レバーを引け!」
〈...了解。機体を投下〉
バレルキャリーを乗せていた足場が動き、機体を後方へと運ぶ。そのまま機体は空中に投げ出され、高度一万メートルからの
最初にモニターに映ったのは、地上に存在する脅威を知らせる無数の警告表示だった。
それらを覆うように、緑色の落下傘開傘メッセージが表示される。背面のメインパラシュートが開き、落下する機体を減速させた。地上からの高度は約三百メートル。
新緑広がる丘の麓に、大傘の力を借りた鋼鉄の巨人が着地した。
〈こちらはT.E.C第二試験戦隊隷下・第四十九戦術戦闘評価部隊〈ノクティールカ〉です。あなたの作戦参加を形式上は歓迎します〉
無線に女の声が入る。ヘレナとは違う、冷たさを突き詰めたような声だ。発信者は〈UNKNOWN ARMS-FACE〉と表示されている。輸送機を照準した機体だろう。
「こちら兵員派遣企業シムズガンナー所属のウルフ、ジャック・リンヴェルトだ。よろしく頼む」
〈ノクティールカ所属のマドカです。あなたに何か頼まれる筋合いはありませんが〉
〈マドカ、発言に気をつけろ〉
男の優しげな声が話って入る。なぜか、私はこの声に聞き覚えがあった。
〈所属のウルフが失礼した。ノクティールカの部隊専属オペレータを務めるヤガタだ。こちらこそよろしく〉
「ヤガタ......?」
私の記憶は正しかった。この男と私は、十年前に同じ戦場にいた。私はT.E.C少年兵部隊の隊員として。彼はその部隊の隊長として。
〈どうした、俺を知っているのか?〉
「......〈ジャック〉の名前を覚えているか?」
「ジャック?......すまない。これまで大勢のジャックさんと会ってきた。いつ俺と会ったジャックさんだ?」
「
〈......十年も前のことだ〉
「ヤガタ。君はその隊長で、私は君の部下だった。十年も前のことだがな」
〈ジャック・リンヴェルト......ああ、確かにいた。あの日、砂の上でジョーカーを見たな〉
〈面白いですね〉
マドカの声が混じる。モニターのレーダーをチェックすると、〈UNKNOWN ARMS-FACE〉の表示が重なる黄色の光点がこちらに接近していた。
〈元T.E.Cの少年兵で、十年前に除隊。その後はT.E.C系列の一般企業で働いて、そこも退職。今は傭兵稼業で日銭を稼ぐ身......〉
マドカは一拍置き、言葉を続けた。
〈つまり、単なる素人〉
〈ちょっと、マドカ......〉
〈作戦概要を説明してください。ミスター・チキン〉
〈あ、あのさ......オペレータ室から見てるだけだからって、
〈黙って仕事もできないんですね。ミスター・
〈......作戦の概要を説明します〉
モニターに地図が出る。作戦領域エリアを区切る線が重ねられた。
〈作戦内容は未確認機部隊の排除です。近頃、T.E.Cの岩塩採掘拠点である塩鉱山周辺に所属不明の集団が出現しています。当初、本社はこの事態を〈脅威度レベル1〉として治安部隊の派遣を検討していました。しかし先日、衛星写真に映った物が事態を急変させました〉
地図の上に数枚の写真が並べられる。どれも塩鉱山を軌道上から撮影したものだ。
〈数日間のうちは、連中の装備は大半が
写真の情報量が一変する。数人の武装した人間と改造車だけだった場所に、大型トレーラーが進入している。次の写真にトレーラーはいなかったが、四機のAFが残されていた。
〈ご覧の通り、AFが駐機しています。高精細分析の結果、機種は四機すべてがオーバルジーン社の純正AF〈
「ランサーソルコフ......テロリスト御用達の
〈武装の詳細は分かっていませんが、
「ハイエンド?彼女の機体か?」
〈そうだ。この第四十九戦術戦闘評価部隊はハイエンドAFを運用している。もちろんマドカも例外じゃない〉
丘の上から黒い影が差す。見上げると、影そのものをオーバーラップしたかのように黒い機体が立っていた。
数ヵ月前、初陣でもあった試験に介入し、二人の同僚候補を殺害した機体だった。
「......」
〈機体名はバタフライズドリーム。覚えてやってくれ〉
忘れもしない、と言いかけたが、相手側は自分のことを覚えていないようなので踏みとどまる。なるほど、確かにあの機体がハイエンドだったなら、常軌を逸した挙動は理解できる。
〈二人がいる場所は塩鉱山の麓の丘。四キロ離れた場所に敵勢力の拠点がある。当然敵は気づいていない。一気に叩いてくれ〉
〈了解。お二人とも、せいぜい足手まといにならないように〉
〈ハハ、やっぱ手厳しいな......〉
小さく笑いながら、ヤガタは通信を切る。後ろを向いたバタフライズドリームは、背面ブースターを吹かして移動を始める。それに遅れないよう、私は機体を加速させる。
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