997日目


「なに読んでるの?」

文庫本から顔を上げると、お風呂上がりの由香が小首を傾げていた。

薄手の白いインナーに、ショートパンツという格好。上気した頬が艶っぽい。

 邪心を悟られないよう、淡々と応じる。

「由香ちゃんが勧めてくれたやつ」

「マジ!? どう!?」

「割と好き」

「やったー!」

 嬉しいからって、夜中に小躍りするな。

「あと、【これを読んでる時、由香ちゃんがどんな気分だったか】を想像するのが楽しい」

「ど、どういうこと?」

 呆けた声で尋ねる由香。その眼を見据えて言い切る。

「これ読んでるとき、寂しかったでしょ」

「……何で分かるの!? エスパーなの!?」

彼女は驚愕に目を剥いた。

無論、私はエスパーではない。ただ、由香がどういう気分の時に、どういう本を選ぶか、パターンを何となく知っているだけ。

恥ずかしそうな彼女に聞く。

「一緒にいたいなら、言えばいいのに」

「……そういうの、苦手なんだよね。思い返すと、あんまりやったことないっていうか」

「相手が勝手に距離を詰めてくるから?」

「意訳で性悪に仕立て上げないで!」

 夜中に大きな声を出すな。

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