2日目と999日目

2日目 


「加奈ちゃんってさ、いつも一人だよね」

授業と授業の合間。隣席の三橋さんが、いきなりそんなことを言った。

半眼を向けると、意外にも彼女は真顔だった。普段はヘラヘラしているからか、ギャップで妙な色気を感じる。私を馬鹿にしている訳ではない……かな?

だとしても、こういう人間は、悪気なく他人を傷つける。だから苦手。

つい、返事も刺々しくなってしまう。

「同じクラスになってから、まだ三日しか経っていないのに、なぜ私がいつも一人だと言い切れるんですか?」

「いや、学校で見たことあるし」

半笑いで応じる三橋さん。

「私なんかを普段から気に留めているなんて、随分と目ざといんですね」

「いやいや、加奈ちゃんが歩いてたら、大抵のヤツは見るって。美人だし」

「……適当なことを言わないでください」

 お世辞を真に受けて、少し喜んだ自分が恥ずかしい。

 私の否定に、三橋さんは目を剥いた。

「いや、マジだって! てかそれ、謙遜だとしたら、一週回って嫌味だよ?」

 だとしたら、三橋さんの発言は、二週回ってジャストで嫌味だ。

 返答に窮した私の顔を、三橋さんが下から覗き込む。

「え? 照れてる?」

「照れていません」

「いや照れてるよね? 顔、赤いし」

「あ、赤くありません」

向かう先も無いのに、勢いよく立ち上がって、教室から離脱。残り数分の休み時間を廊下で過ごした。




999日目


「なんと! 今日は付き合って500日記念日でーす! いえーい!」

 大学の授業を終えて帰宅すると、玄関で待機していた由香が嬉しそうに言った。

 だとしても、玄関で小躍りしないで。近隣住民の目に入ると、変な目で見られるから。

「それ、明日だよ。今日は499日目」

「え!? マジ!? ミスった!?」

泣きそうな面持ちで携帯電話を操作する由香。メモアプリで記録していたのだろうか。

リビングのソファに腰を下ろす。ちょっと休憩。

息を吐いた私に、視界の外から由香が尋ねた。

「ていうか、記念日、覚えててくれたんだ」

「……たまたまだよ」

にやにやと笑いながら、由香は私の左隣に座る。

「前は【いちいち記念日を祝うのとか、あんまり好きじゃない。片方だけ覚えていた場合に、ストレスが生じるから】って言ってたのにな~」

「……今の、私の物真似?」

スルー出来なかった。由香はドヤ顔を浮かべる。

「そうそう。似てるっしょ」

「似てない。私、そんな不愛想な喋り方してない」

「してるよ?」

「……してない」

「いや、してるって」

「……自分を客観視するのって難しいね」

「それなー」

けらけら笑う由香。他人事だと思いやがって……。

「客観的に見た由香ちゃん、やってあげようか?」

「まじ!? 見たい見たい!」

期待に応えて、物真似を披露。

「【……っ、お、お願いだから、早くっ、】」

「わー! ばかばか! ストップストップ!」

一気に顔を赤くした由香が、私の言葉を遮った。微笑で尋ねる。

「昨日の夜、由香ちゃんが言ってた台詞だよ?」

「そんなこと言っ……たけどさぁ~」

赤面して悶える由香。してやったりだ。


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