第六話

 ――新しい宝物の様子を見てくるんですよ。

 確かこの世界に遣わされたのは七年前だった。

 宝物。それはこの世界の実在を支えるための神聖な道具。あたしはその宝物庫の管理人の一人だった。

 今度新しくやってくる宝物の管理をする順番が回ってきたから、宝物の様子を見るために、この世界に降りてきた。

「シロハです。さあ、天使さまにご挨拶を」

「天使さま、お初にお目にかかります。この度宝物になるシロハと申します」

 あのとき、あたしは、すごく素直そうな子だと思ったんだ。とっても可愛い顔をして……あれ? 顔が、思い出せない。

 ――東雲、何をしてるんだ!?

 ――これを使えば、『シロハの居る世界』を創れるんだよね?

 ――神が許すはずがないだろう!?

 ――うるさいよ。

 神にしか使えないはずの宝物。世界の実在を支えるための清らかな魂。宝物になっちゃったシロハ。それをあたしは使おうとして……そしていろんな記憶を失った。

 でもなんでこのことを『思い出せてる』の? 一番肝心な、シロハの顔は思い出せないのに、なんでこんな辛い記憶を思い出しているの?

 ああ、町に真っ白な光が降り注いでいる。あれは神の御光(みひかり)……?

 ああそうか。神が、あたしに罰を告げに来たのか。

 最後に思い出すのがこんな記憶なのも、光にやかれて苦しいのに動けないのも、町が光にやかれて消えていくのを何もできないのも、全部全部、あたしへの罰。

「シロハ……」

 せめてあなたの顔を思い出したいのに、ぽっかりと開いた黒い闇しか思い出せない。

 でもあなたともう一度会えて、良かったよ。

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