If life gives you lemons, make lemonade.

 自分のに気づいたのは、橘に声を掛けられた時だった。


「あの、日下部君」

「……あっ」


 俺は自分の口を押え、次いで肩をがくりと落とした。せっかくここ数年、隠し通しせていたのに……!


 ため息を一つ。俺は開き直って、言った。

「えーと、まあ。俺、実は関西出身で」


「あ、それは分かってました」

 橘が右の手のひらを前にずい、と押し出しながら言った。

「へっ?」


 橘は、

「日下部君。言いにくいんですけど、『日番』って兵庫県の方言なんですよ」

 と、さして言いにくそうでもない様子で言う。


「……マジで?」

「はい。あまりテレビで取り上げられないので、知ってる人は少ないと思いますけど」


 橘はそこで言葉を切ると、窺うように言った。

「……どうして、隠すんですか」

「……昔。こっちに越してきたばっかりの時に、めちゃくちゃ馬鹿にされて、孤立した時期があって。だから」

 放り投げるような言い方になってしまった。橘は黙っている。


「それでも、時々感情が昂った時に出るから、なんとか頑張って隠してきたんだけど。……俺、何で最初から関東に生まれなかったんだろ。方言とか鬱陶しいだけなのに」


 橘は顎に軽く握った手を当てて、少し考え込む様子を見せた。それから、おもむろに口を開く。

「日下部君。『人生がレモンを投げてきたら、レモネードを作れ』という言葉があります。逆境があっても、良いことに変えていこうという意味です」

「……はあ」

 急に何の話だ。


「柴野さんは好きな人に利用されかけましたが、幼馴染の優しさに気付くことになるかもしれませんし、煤原君に見切りを付けられることになるでしょう。

 そして、日下部君を苦しめた方言は、私を脅かす存在を追い払ってくれました。……見方によっては、悪いものではないと思うんです」

 橘は淡々と言う。けれど、瞳は力強かった。


 俺は、おずおずと口を開く。

「……ほんまに?」

「はい」


 橘は続けて言う。

「私の前では、方言で喋っても構いませんよ。絶対にからかわないので。……あ、でも、話しかける時は立ち上がってからにしてください。私は立ち話が好きなので」

「いや、何でや!」


 橘がくすくす笑う。笑っているところは初めて見た。

 まあ、方言も案外悪くないのかもしれない。

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橘氏の立ち話 久米坂律 @iscream

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