第4話

 その頃、屋敷正面玄関では盗賊と武装メイド部隊の銃撃戦が行われていた。激しい銃声が鳴り響き、次々と盗賊たちが倒れていく。まさか、即席のバリケードを用意して、それに隠れながら戦うとは思わなかった。屋敷の奥から弾帯を巻き付けたメイドたちが現れては小銃を構え、盗賊に恐れることなく撃ち続けていた。



 メイドの一人が弾を切らせた。今だ! と盗賊の数人が突撃しようとするとメイドの一人が叫ぶ。


「11時の方向!! 阻止しろ!!」


 その指示にメイドらが激しい銃撃を加えてくる。バリケードから出た盗賊らはハチの巣となった。


「くそっ!  何なんだこの女どもは!」


 ブラッド・ホース盗賊団に所属するオムルは頬に汗を流した。拳銃の弾丸を装填する隙もなく、弾切れを起こす度にリロードしては撃つ。その繰り返しだった。残りの弾の数を確認するも、足りそうになかった。死んだ仲間の弾帯から奪い取る。


「東棟と西棟にいったやつらはどうしたんだ?! なんで合流してこない」

「わかりませんよ……」

「チッ、使えねぇなぁ!」


 そう言って、彼は近くにいた部下を蹴り飛ばした。すると突然、メイドたちからの銃撃が止んだ。不思議に思い、彼はバリケードから顔をのぞかせる。


 そこには少し背の高いメイド服を着た女性が立っていた。彼女は手に剣を持っている。まさか、と持ったが、ゆっくりと自分たちの方へと歩きて来ているのだ。


「私はこのエルデル家に仕えるメイド長のアリシアと申します。早速ですが、あなたたちにお聞きしたいことがございます」

「はっ。何が聞きたいんだ?!」

「誰の差し金でしょうか?」

「言うとでも思うか?」

「そうですよね。言う訳ないですよね」


 アリシアと名乗るメイド長は静かに笑みを浮かべる。


「じゃあ、どうする?」

「生き残った方々に拷問をさせて頂こうと思っております」

「ふざけやがって。お前ら、あいつを撃ち殺せ!」


 オムルは言った。その言葉と同時に、盗賊たちは一斉に発砲を始める。しかし、アリシアは避けようとしない。ただ真っ直ぐに歩いてくるだけだ。まるで、自分に当たる弾をだけを斬っているような動きだった。身体を掲げ、踏み込む。目にも止まらぬ速さで、オムルの前に立つと彼の右腕を切り落とした。


「ぐわあああっ!」


 オムルは叫びながらその場に倒れた。残った腕からは血が流れ出ている。


「て、てめぇええよくもぉおおおお!!!」


 左手で隠してあった拳銃を取り出し、アリシアに突き付ける。そして、引き金を引こうとするが、それよりも先に彼女の剣先が彼の心臓を突き刺していた。オムルはそのまま息絶える。他の盗賊たちは一瞬の出来事で何が起きたのか、理解できなかった。だが、目の前にいる彼女が自分たちを殺しに来たことだけはわかっていた。ショットガンや拳銃、ライフルを構えて、引き金を引いた。弾丸がアリシアの額に直撃する寸前で、身体を傾けて避けると剣を振り下ろす。


「ぎゃぁあああ」

「次!」


 背後にいた2人の盗賊を横一文字に斬り裂く。さらに、正面から来た盗賊の腕を斬り飛ばし、腹部に刃先を押し込んだ。盗賊は口から大量の血液を吐き出すと絶命する。二連式の散弾銃を持った盗賊が恐慌状態になりながらも撃つも、近くにいた盗賊の腕を引っ張り、肉の盾にする。


「ひぃいい!?」


 慌てて、装填しとうとするも手が震えて、弾を込められない。刺突する構えを見せ、首元を貫く。


「メイド長に続け! 突撃!! 前へ!!」


 1人のメイドが叫ぶと武装メイド部隊が一気にバリケードを乗り越えていく。腰に下げた剣を引き抜き、次々と盗賊たちの命を奪っていく。盗賊たちの中には戦意を喪失した者もいたが、容赦なく撃ち殺されていった。やがて、屋敷内は静まり返った。立っているのは、武装メイド部隊だけだった。


 アリシアが指示を出す。


「よし! 続けて、庭にいる盗賊を掃討する! 配置につけ!」

「「「はい!」」」


 返事をしたメイドたちが、屋敷の窓を小銃の後端部で窓ガラスを割りはじめ、構えた。


 アリシアも外の様子を確認する。薄暗い中を複数の影が動いていた。それが盗賊だとすぐにわかる。


「屋敷に近づけさせるな! 各々の判断で、射撃せよ!」


 メイドたちは窓から小銃を構えると、盗賊たちに照準を合わせる。静まり返っていた屋敷から再び、銃撃が始まる。


 その様子を見たアリシアは静かに微笑むと、剣に付着した血を振るい落とすのであった。屋敷の外から聞こえてくる激しい銃撃は盗賊たちの侵攻を阻んでいた。


 それを離れた丘の上で双眼鏡で眺めていたボルッグが目の前で起きている状況に理解ができなかった。


 屋敷から止むことのない銃撃の嵐、そして、武装したメイドたちの姿。さらには双眼鏡にとんでもないものが映る。


「おいおいおい、どうなってるんだ!?!!」



 ボルッグの目に映ったもの、西棟の窓から顔を覗かせたガトリング砲だった。そこから放たれた無数の弾丸が屋敷の敷地内の盗賊たちをなぎ倒していく。


「なんで、ガトリング砲を持ってるんだ?!!!」


 ガトリング砲はまだ、開発段階で、その数はあまり出回っていない。かなり高額な価格で、気軽に買えるようなものではない。


 それをこの屋敷のメイドたちが所持しているのには理由があった。


「くそっ、あいつらまさか帝国軍直属の部隊か……?」


 屋敷の扉から現れたメイドたちが一斉に外へ飛び出して、盗賊たちに攻撃を開始する。メイドたちはスカートの中から手榴弾を取り出し、ピンを抜いて投擲する。爆発が起き、土煙と共に盗賊たちを吹き飛ばす。素人ではない動き方。軍隊並みの制圧力。気がついた時には銃声は鳴り止み、敷地内にいた盗賊は全員、殺された。ボルッグは唇を震わせ、双眼鏡を下ろした。


 後方にいた盗賊らが意見する。


「ボス、ここは一度、退きましょう」

「奴らは想像以上に強い。残った俺たちじゃあ、勝ち目はありませんぜ」


 部下たちは口々にそう言った。


「くっ……」


 確かに、今の状況で、あの数の武装したメイドを相手にするのは無理がある。

 しかし、このまま、逃げ帰るわけにもいかない。プライドが許さなかった。そうも言ってはいられない。


「……お前ら、撤退だ」


 苦虫を噛み潰したような顔で、彼は決断する。


 振り返った瞬間、そこに青髪の少女が立っていた。


「こちらバウラ、敵の指揮官を発見、判断を仰ぐ。オーバー」

『アリシアからバウラへ。捕虜の必要なし。すでに1人が依頼主を吐いた。よって、殺害せよ。オーバー』

「了解」


 通信を終えた彼女は短剣を交差させ、構えた。


「き、貴様たちは一体、何者だ……?」

「さあね」


 ボルッグは冷や汗を流しながら質問するも、バウラは素っ気なく答える。


「まぁ、どうせ生きて帰れないんだし。教えてあげる。僕たちはメイドでもただのメイドじゃない。帝国軍特務に所属する武装メイド部隊……」

「帝国軍の特務だと?! く、くそぉおおお!!」


 ボルッグは叫び、ホルスターに手を伸ばし、ハンドガンを少女に向けた。ボルッグの部下たちも銃口を彼女へ向ける。だが、引き金を引くよりも先に、バウラが動く。姿勢を低くし、懐に入り込むと、裏ももに短剣で斬りつけ、態勢を崩したところを首元を一突きする。


「このやろぉおおお!!!」


 ボルッグの仲間が撃った銃弾が彼女の頬をかすめる。バウラは冷静に、突き刺した短剣を引き抜くと腹部を斬りつけ、地面に手をつくと回転蹴りを顎に食らわせる。部下が倒れるのを見て、ボルッグは定まらない照準のまま、発砲する。


 バウラはそれを紙一重でかわすと跳躍し、空中で体を捻り、隠し持っていた短剣を投げつける。ボルッグの右肩に短剣が深々と突き刺さった。


「ぐわあああっ!!」


 ハンドガンを落とした。ボルッグの上に着地すると、馬乗りになり、彼の頭を掴んで、膝で傷口を押さえつける。


「ぐぅうっ!! は、離せっ!」

「帝国のために死ねるんだ。本望でしょう?」


 バウラは冷淡な表情を浮かべると、喉に短剣を突き立てる。その目は冷酷そのものだった。力を入れて、短剣を突き刺した。


「ごふっ……」


 ボルッグの目から光が消え、体が痙攣し始める。


「こちら、バウラ、任務完了。これより合流する」


 そう言うと彼女は立ち上がり、短剣についた血を振り払う。





 屋敷の方からは武装したメイド部隊が倒れている盗賊が生きているか、足先で蹴りつけたり、ハンドガンで二度確認の為に射撃したり、と確実に殺害を行っていた。怪我を負って動けなくなっていた盗賊の頭と胸に容赦なく銃弾を浴びせる。


 その光景を見たアリシアは頷いた。


「……メイド長、敵の排除、完了した模様です」

「よくやったわ。これで屋敷の安全も確保できたようね」


 アリシアの言葉を聞いて、メイドたちが強張っていた表情が緩む。泥まみれになった顔を拭う者もいた。


「負傷者がいる場合はすぐに報告しなさい。衛生班はすぐに駆けつけるように」


 アリシアの指示で屋敷から数名のメイドたちが負傷して動けないメイドたちの方へ向かう。アリシアは安全が確保されたことを確認するとアレクのいる地下室へと向かう。

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