第3話

 しかし、ゾルデには意味がなかった。夜目の効く彼女は暗闇の中でも、敵の居場所を正確に把握できる。視力も普通の人間とは比べものにならないほど良い。


 茂みの中で身を潜めた盗賊に狙いを定める。ゾルデの狙撃銃のスコープには揺れ動く下草しか見えていなかったが、彼女の頭の中ではどこが身体の部分なのか、大体、予測ができていた。


「地獄で後悔するんだな。このゾルデ様に出会ったことをよ」


 引き金を引くと、轟音とともに銃弾は放たれた。


 次の瞬間、盗賊が隠れていた下草が真っ赤に染まる。


 それから撤退していたメイドの2人が気になり、スコープを向けると2人は屋敷の正面玄関へとたどり着いていたようで、中へ入るのが見えた。安堵したと思った矢先、スコープの端で動く何かが見えた。そこへと向ける。


 すると屋敷の東棟の窓から盗賊たちが侵入しようとしていたのだ。急いで、弾倉を変えて、狙いを絞り、発砲する。1人だけ胸を撃ち抜き、仕留めたが、残りの盗賊らは窓を突き破って、そのまま侵入していく。窓越しに見える盗賊を狙ってダメもとで射撃したが、窓ガラスに穴を空けるだけにとどまった。


「さすがにここからじゃあ、狙えねーか」


 ゾルデは舌打ちして、悔しそうな表情を浮かべると、すぐに気持ちを切りかえて、傍に置いていた無線機を取り出す。


「こちら、ゾルデ。バウラ、聞こえるか?」

『ああ、聞こえる』

「すまねぇ。撃ち漏らした。東棟から何人かが入った。対処してくれ」

『わかった。問題ない。任せろ』

「頼んだぜ」


 そう言って通信を切る。ゾルデは再び、狙撃銃を構えた。






 東棟に取りついた盗賊たちは恐怖していた。仲間の何人もが中庭で撃ち抜かれたのだ。暗闇の中、窓越しに視線先にある石造りの塔を見る。


「どういうことだ、あんな遠いところから狙撃しているのか」


 暗闇の中でもオレンジ色に光り、そこで射撃しているのがわかるが、遠すぎで、相手の姿を見ることができない。あんまり、覗き込むと撃ち抜かれるのではないかという恐怖で、窓から頭を出すことさえできなかった。


 運が良かったのか、逃げ込んだ東棟の通路の灯りは消えていて、真っ暗だった。頭を下げつつ、静かに進む。


 すると暗闇の中、人影があった。一瞬、びくりとしたが、その人影をよく見ると自分たちと同じ服装をしている。どうやら、盗賊たちの仲間らしい。盗賊たちは安堵した様子で声をかけようとした。


 しかし、その盗賊の頭部がどこにもなかった。


「ひぃいいい?!!!」


 恐怖のあまりに腰が抜ける。後ろから来た仲間の盗賊が腰に下げていた拳銃を取り出して、構えるが、暗闇の中に溶け込んでしまったかのように姿が見えない。


 突然、仲間の悲鳴が聞こえた。さらに続けて、次々と断末魔の声が上がる。


 やがて、辺りが静寂に包まれた。そして、廊下の奥からゆっくりと歩いてくる足音だけが響いた。月明かりに照らされたのは青髪短髪の少女だった。


 両手には短剣を持っている。そこには血がべっとりとついていた。少女の顔は無表情だが、目だけは笑っているように見えた。「うわぁああ!」と叫びながら、盗賊の1人が拳銃を乱射する。


 それを少女は短剣で弾丸を斬り落としていく。弾切れになった瞬間、少女が持っていた短剣を投げつけた。盗賊の首筋に刃を突き刺す。男は倒れ込み、絶命した。


 他の盗賊たちも慌てて、ライフルや二連式ショットガンと構え、撃とうとすると、少女は瞬時に移動し、相手の懐に入り込んでいた。


 そして、首元に噛みつくように短剣を突き刺し、引き抜くと同時に傷口から鮮血が吹き出す。それを浴びながらも少女は盗賊たちを次々と倒していった。足を止めたと思い、ハンドガンで射撃をするも、なんと壁を横走りしたのだ。


「な、なんなんだよこいつはぁあああ―――!!!」


 盗賊の視線先に短剣の刃が迫ってきた。





 数分後、全ての盗賊たちを屠った。通路の壁や床は血の海となった。それを見て、バウラは表情を崩すことはなかった。


「任務完了。こちらバウラ、侵入者は排除した。ゾルデ、聞こえるか?」

『おう!  聞こえるぜ! よくやった! 手際の良さ、惚れちまうよ~』

「…………」


 無言になる。


『冗談だよ。マジになんな』

「わかってる」

『東棟はそのまま任せるぞ』

「了解」


 ゾルデとの通信を終えると、まだ息がある盗賊がいることに気がついた。振り返えって、とどめを刺そうと近づこうとすると、盗賊は震えた手で制止する。


「ま、まってくれ……頼む……殺さないでくれ……」

「……」


 彼女は何も言わずに盗賊に近づくとしゃがみこんだ。顔を近づける。


「助けてほしい?」


 盗賊は涙を浮かべて、何度も首を縦に振る。


「なんでもする……だ、だから、命だけは…」

「何でもするって言ったね」

「あ、ああ」

「じゃあ、死んで」


 笑顔で言い放つ。盗賊は言葉の意味を理解する前に胸に刃物が突き刺さる感覚がした。






 西棟でも同じく、盗賊たちが侵入していた。食堂を進んでいると目の前にツインテールのメイドが立っていた。少女の目の前には布に覆われた大きな何かが置かれている。


「わー、盗賊がいっぱいいる~モニカこわーい」

 

 顔の前に両手を持ってきて、ぶりっ子した。それに盗賊らは目が点になる。


「……」

「あれれ?  無視されちゃった。ねぇねぇ、モニカと一緒に遊ばない?」

「はぁ? ざけんな。このガキが」

「お前ら、あのガキ、ぶち殺してしまえ!」


 そういうと盗賊らが武器を構えた。するとモニカが真横に置いていた物の布を勢いよく剥ぎ取る。すると中から出てきたのは金色に装飾されたガトリング砲だった。その異様さに盗賊らは驚く。


「えへへっ、モニカ、これ大好きなの」


 嬉しそうにガトリング砲のクランクに手をかける。


「おい……まさか……やめろぉおおお!!!」


 盗賊らの叫びを無視して、モニカは「さぁ、パーティーの始まりだよ!!」と言いながら勢いよくクランクを回し始めた。ガトリング砲の銃身が回転を始め、火を吹く。連続する銃声とともに盗賊たちの身体が穴だらけになり、肉片となって飛び散っていった。食堂の机の後ろに隠れてもその銃火からは逃れなれない。


「あははははは!! 楽しいぃ~~~~~!!!!」


 満面の笑みを浮かべて、楽しげに撃ち続け、無数の薬莢が宙を舞って、床に転がり落ちる。


「ぎゃあああああ!!!!」

「ひぃいいいいいい!!!」


 逃げようとする盗賊たちの背中にも容赦なく、銃弾を撃ち込む。ガトリング砲の弾薬を全て使い切るまで、撃ち続けた。銃身から白い煙が上がり、シューという音がした。辺り一面は死体の山で、動くものは何もなかった。その光景に満足したのか、ガトリング砲を置いて、視線を巡らせる。


「あれれ、これで全員なのかな? もう少しいたような気がしたけど」

『モニカぁああああ――――!!!』


 無線機から怒りの声が漏れ出す。アリシアの声だった。


『あの銃声はなに!!!? 何をしたのか説明しなさい!!』

「あ、えっと……」


 食堂へ視線を向ける。壁は穴だらけで、食事をするための椅子やテーブルも木屑になっていた。ガトリング砲を食堂の中でぶっ放したなんて、言えなかったモニカは視線が泳いだ。アリシアはまだこの状況を知らないため、モニカは嘘をつく。


「ごめん、お腹空いたから、ご飯食べてた」

『はぁああああああッ!!!!???』

「ひぃい!」

 

 鼓膜が破れるくらいの声だった。


『あんた、まさかガトリング砲を持ち出したんじゃないわよね??』

「そ、そんなことしないよぉー……」


 目を逸らす。


『はぁ……まったく……もういいわ。そのまま西棟の守備についてちょうだい』

「は、はーい」


 無線を終えると、安堵のため息を漏らす。


「ふぅ、危なかった……」


 モニカが弾倉を変えようとしていたとき、三人の盗賊が物陰から飛び出す。拳銃で武装していた。


 すぐにガトリング砲を構えようとするが、遅かった。すでに弾丸が発射されており、モニカの頬を掠める。慌てて、屈んで、回避する。盗賊たちはさらに発砲してきた。モニカは身を翻しながら、避けていく。しかし、完全には避けられず、二発ほど右腕に命中してしまった。


「うぅ……」


 怯んだ隙に盗賊の一人が剣を構えて、迫ってくる。モニカは咄嵯に左手でハンドガンを取り出した。


「こいつ!」


 剣を振り下ろそうとする盗賊にモニカは引き金を引いた。至近距離からの射撃だったため、盗賊の顔面に直撃する。


「ぐあぁあああああああああ!!!」


 盗賊の顔半分が吹き飛んだ。血飛沫を上げながら、崩れ落ちる。残りの2人が迫る。モニカはどちらに銃口を向ければいいかわからなくなった。盗賊の背後から銃声がする。盗賊の二人は白目を剥き、手に持っていた拳銃を滑り落とすとその場に倒れた。


 メイド服をきた茶色の髪をしたポニーテールの少女が駆け寄る。


「モニカ! 大丈夫です?」

「うん、平気だよ~撃たれちゃったけど」


 と撃たれた右腕を見せてくる。ポニーテールの少女はハンドガンを置き、鞄から包帯を取り出して、モニカの腕に巻き始めた。


「ありがと~クレア」

「ほんと油断は禁物ですよ」

「えへへ、ごめんね」


 手当が終わり、2人は立ち上がるとそれぞれ、配置についた。



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