第8話『異変〜disaster(前編)』

ゆりの連合登録を済ませた後、ヨザーヌを無理やり連れ出して食事をしにいく4人。


『さ!、ゆりちゃんの連合登録が完了した祝いとして、みんなで晩御飯を食べにいくよ!』


元気な声でズカズカと歩いているヤミル。他の3人は後ろに続いている。


『はぁ〜、どうせ俺が奢るんだろうな。もうあいつと何年も一緒にいたら、嫌でも勘付くんだ。ヤミルは結構大食いだから毎年に一度、俺の財布から金が無くなっていくんだよ。』


ヨザーヌは、自身の手を強く握りしめて冷静に怒っていた。少し苦笑いをしながら...そして、ヤミルの意外な一面を少し知ったゆりとルザス。


『ヤミルさんにそんな一面もあったんですね!驚きました!意外と食いしん坊だったとは。』


『うんうん.....。』


ゆりとルザスは、互いにコクコクと頷く。そんな雑談をしながら数分歩いて着いた先は、街の端にぽつんと建つお店があった。お店の外装はしっかりしていて、小さいライトが吊るしてあったり、メニューが書かれた看板が立て掛けてあった。4人は止まらずに中へ入っていく。すると、店の中は意外と広く、カウンターやテーブル席などがあった。よく見ると、カウンターの席に長髪の女性が此方の方に体を傾けてじっと見ていた。しかし、その女性は目が隠れる程前髪があり、後ろ髪も床に着きそうなくらい長く伸びている黒色の髪だった。


『よぉネルフィス。お前相変わらずその前髪長いな。ちゃんと週に一回は髪切りに行けよ?。』


『そうさね。折角の可愛い顔が台無しだよ。もっと自分に自信持ちなさいな。』


ネルフィスという女性に親しげに話すヤミルとヨザーヌ。するとその女性は少しモジモジした後、自身の長い前髪を掻き分ける。ネルフィスの目は光輝く翡翠色の目をしていた。ネルフィスは、ルザスとゆりにペコリと礼をする。


『はじめまして、このお店の一応店長をしています『ネルフィス・アルネシア』と言います。以後、お見知り置きを。』


ニコッと2人に微笑むネルフィス。それを見たヤミルとヨザーヌは、ため息をつく。


『ネルフィス、いつもの素に戻っていいぞ。この2人はそう簡単に秘密を吐いたりしない。だから安心していい。』


ヨザーヌは、そう言うとネルフィスの頭を軽く撫でた。するとネルフィスは、座ったまま頭を下げて暗く落ち込んでいる。


『はぁ、やっぱり私には無理なんですよぅ。私がまだ連合の支部で受付をしてた時に、ヤミル先輩とヨザーヌ先輩に急に連れてかれた先がぽつんと建つお店で、『ネルフィス、すまないがこの店の店長を務めて欲しい!夜に営業してくれればいいから頼む!しっかり給料は払うし受付の仕事は俺が代わりに受け持つから。引き受けてくれ!』...なんて言われたら誰だって断れないじゃないですかぁ...』


少し目から涙がポロッと出ながら、不安に思いながら言うネルフィス。


『はぁ、だから言ったじゃないかヨザーヌ。ネルフィスには荷が重いって言ったじゃないか!性格上、断りにくい事は知ってるだろ!』


腰に手を掛け、ヨザーヌに叱りながらため息を出すヤミル。


『うっ...だ、だが、それなら逆に人がたくさん来る受付だってやらせてたら荷が重いだろう?俺はせめてもの慈悲を与えたんだよ!そ、それにあの店は俺とヤミルしか入らないんだから少しは緊張が和らぐと....』


『その慈悲が!逆にネルフィスを困らせているんだろ!立場上ヨザーヌ、アンタはネルフィスの上司...先輩だ!後輩が先輩の頼みを断れるわけ無いだろ。』


長々と、ネルフィスの事を思ってとやった事を話すヨザーヌに、それは逆効果だと叱っているヤミル。ゆりとルザスはその光景を黙って見ている。


『ま、まぁ...客が先輩方2人しか入らない店で働かせていただいてるので...感謝はしています。圧迫感に当てられずに済んでるので。』


人差し指で頭をポリポリ掻きながら、申し訳ない顔で言うネルフィス。少し照れていた。


『では、そろそろ食事をしませんか?ずっと立って話してたら足が疲れますし。何なら、ゆりさんが疲れて席に座ってますから。』


『....話、長いから...。』


ヨザーヌとヤミルが振り返ると、足が疲れて席に座っているゆりが見えた。それを見た2人は軽く笑った。


『ハハハ、そうだな。食べに来たんだから話してる場合じゃないな。』


『ふん、違う日にこの話をするからね。今日はこの辺で勘弁してやるさね。』


『で、では今日は何のメニューがいいですか?実は昨日、食材を幾つか調達して来たのですがお二人が好きそうなものがあればいいのですけど...(私の事に関する話をなるべく早く遠ざけないと私の罪悪感が悪化しちゃう!)。』


そう言うと、ネルフィスは調達した食材を記載した紙をヤミルとヨザーヌに見せる。


『...ほう!虎の魔物のタガーか!深い森の奥底に生息してる奴じゃないか!こいつはいい食材だな。』


『ふーん...、鷲(わし)の魔物のリーバートか。低空飛行で獲物を狩る討伐難易度が高い魔物だね。しかも2体以上仕留めてくるとは...。』


2人は紙に書いてある魔物の名前を見て、とても驚いていた。その目は、まるで子の成長を見守って来た親の目をしていた。


『...最初は、アビリティを使いこなせなかった小さい少女が...ここまで成長するとはな。』


『今の私がいるのは、先輩方のお陰ですよ。落ち込んでばかりの私に手を差し伸べて沢山の事を教えてくれました。ありがとうございます。』


ニコッと2人に微笑むネルフィス。ゆりとルザスにも、メニューを見せる。


『お二人は初めてだと思うから、このメニューから選んでね。』


『ありがとうございます。それじゃあ私は...この、兎の魔物のビイラットの香草焼きと水でお願いします。』


『私は...魔物の...その、血が欲しい...です。』


ゆりがそう言うと、ネルフィスは少し驚き、他の3人も同じ反応をした。


『...血ですか。ちょっとゆりさんの鑑定をさせて頂きます。アビリティ『魔法書』鑑定...。こ、これは...。』


ネルフィスは、驚く様子を見せた。周りは少し疑問に思う。

同時刻...タナンヤの街付近にある林で、何者かが集団を率いていた。


『お前達!今から先は、ナルウェラ王都の端に位置するタナンヤの街を今夜!襲撃する!』


『『『グオォー!』』』


『男も女も!老人も子供もだ!全員...皆殺しだ!』


タナンヤの街に向かって、襲い掛かろうとする悪が迫ろうとしていた。

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