第6話 『宿屋『ヤミル』。』

最後の1人のヤミルに、商品を無事届けた2人。受け取ったヤミルは、2人を見て高らかに笑っていた。


『ハハハハハ!ルザスは私の知らないうちに、こんなに可愛い子を連れてるとはね!で?どんな関係なんだい?』


ニヤニヤと、ルザスとゆりを見ながら両腕を組んで言うヤミル。それを聞いたルザスは軽く両手を左右に振って苦笑いしながら言う。


『いえ、ただの友達ですよ。決して恋人などではございませんので。はい、商品を届けに来ました。お受け取りください。』


サッサっと、商品を次々と降ろしていくルザス。ヤミルの前には、山の様に積み上がった商品の箱がどさっと積まれていた。その時、ヤミルは積み上がった商品をジーッと見つめていた。


『......うん。今回もいい食材達じゃないか!。ルザス!あんた腕を上げたんじゃないか?もう一人前だよ...教える事はなさそうだね。』


数秒見た後に、ルザスを褒め称えるヤミル。

その時の目は少し寂しそうにしていた。


『いえ、ヤミルさんに比べれば全然....僕はまだまだ未熟ですよ。けど、いつかヤミルさんと肩を並べられる様な人になりたい....。私にとっての一人前は、そう軽くはないですから。』


一点の曇りなく、ヤミルに向けて自分の決意を示すルザス。ヤミルは、その言葉を聞いて少しだけ目を細めて軽く微笑んだ。


『.....独りぼっちで、拾った私に休む事なく着いて来ていた子供がここまで大きくなるとはねぇ...。』


そう言いながら、ヤミルは成長したルザスの姿をじっと見つめていた.....。


『...はい!こんな辛気臭い話はお終い!。さぁ今日はうちの宿屋で美味い飯たらふく食わせてやるよ!着いてきな!。』


『相変わらず元気そうでなによりです。』


『......お願いします。........。』


ヤミルに元気な声で言われて着いた先は、大きな宿屋だった。


『宿屋ヤミルへいらっしゃい!1日の宿泊代はお一人で670セルコの宿屋さ。1週間泊まりたいなら1200セルコだからね!。朝飯晩飯はしっかり食わしてやるよ!年に一回、泊まってる奴全員強制の宿屋掃除をするから気を付けるこった。』


ルザスとゆりに向かって、自分の宿屋の説明をするヤミル。説明をしている時の顔はとても商売をする者の目をしていた。


『さ、ゆりさん。中に入りましょうか。ヤミルさんの料理は美味しいんですよ♪。』


『!.....うん...。』


そう言いながら、宿の中へ入る3人。宿屋からは、眩しい光が溢れていた。


『ささ、好きな場所に座りな。料理を今から作るからね!。『家事』!腕がなるねぇ!』


商売人兼宿屋、ヤミルのアビリティ『家事』(ハウスワーク)。名前の通り家事に特化したアビリティで、火、水、風、光といった複数のアビリティを使える。そのアビリティを応用した技を使って家事をしている為複数人で掃除をすると約2、3時間なのがヤミル1人だと、約1時間で終わるのだ。


『...!器具が....勝手に、動いてる。』


調理器具やスパイスが意志を持ってるかの様に動いている様子を見てゆりは、少し驚いていた。


『『着火』.....、んで卵を入れて次に米。ルソンとカコをかけてと...あ、そうだテーブルを拭いてなかったね。『水』、そんで『乾き』、これでよし。あとは、『風』...箸と食器を置いといてと。次は........。』


アビリティを当然かの様に平然と使用するヤミル。約15分とちょっとで晩御飯ができてしまった。


『...あ、.....あっという間だった...。』


『いやぁ〜、ヤミルさんの料理は速い美味いが定番ですからね。何回か見てると慣れるんですよね。』


両手を擦りながら、料理が来るのを待つルザス。とても気分のいい表情をしていた。


『へい!出来たよ!炒め飯とベルグォール肉のソテーだよ!』


先程作っていたと思われる炒め飯と、滅多に手に入らないベルグォールの肉を使ったソテーがゆりとルザスの前に置かれた。ゆりとルザスはそれぞれ、料理を食べた。


『...いただきます......。』


『いただきます。』


一口食べたゆりとルザス。その時、顔がこれほどかという程、幸せそうだった。


『パラパラ....美味しい....。』


『...うん!ベルグォールの肉の臭みを残さずに調理されているから甘みが出てますね!流石ルザスさんです。』


ルザスの料理を美味しそうにパクパクと食べる2人。ヤミルは、そんな2人を見て軽く微笑んでいた。


『褒めたって何も出ないからね?ふふっ、腹一杯食って寝て...朝起きたら自分の仕事に行き、帰ってきたらまた食べて寝るの繰り返しさ。私はね、そうやって毎日頑張ってる奴を応援してやりたいのさ。この宿屋に入って生活する奴は私の息子、娘みたいなもんなんだよ。だからゆりちゃん。何か困った事や、落ち込んだ時はこの宿に戻っておいでね。これは、私とゆりちゃんとの約束さね。』


ヤミルは、少し切なそうな顔をしながらゆりに向けて言う。ゆりはその話を聞いて、強く頷いた。


『....はい。.....ありがとうございます。』


『....。』


ヤミルとゆりが手を握って握手している所をルザスはふふっと軽く笑っていた。


『(ゆりさんにどんどん寄り添ってくれる人達が増えていっているのは大変嬉しいですね。僕ももっとゆりさんの力になれるように頑張らないといけないですね。).....。』


その日の夜は、とても暖かい温もりに包まれて眠りについた...。外は明るい満月でタナンヤの街を光り輝かせていた。ゆりの中で動く魔血も、体内で赤黒く光輝いていた...。

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