第3話 『青年との出会いと秘密』

『...大丈夫......君....。』


助けた青年の近くに来て、少し離れた場所で

言うゆり。青年は、額から汗が垂れる。


『!...あ、あぁ。大丈夫だ。と、ところで、

あのベルグォールを倒したのは君か?』


死んだベルグォールの死体に指を刺してゆりに聞く青年。ゆりは、ジーっと立ったまま

答える。


『....そう。......私がやった。』


やや目つきが細いが、返答をするゆり。その時の表情は、やや暗かった。何故かと言うと

ゆりは極度の人見知りだった。知らない相手

がいると若干目を細めてしまう。しかし、誰も見ていない、会わない時はすらすら話せている。話も片言になってしまう為たまに聞きにくい時もある。


『まずは礼を言わせてください、ありがとう。助かりました。』


そう言って、ゆりの前でお辞儀をした青年。

ゆりもお辞儀を返す。


『折角助けてくれたので、僕が暮らしてる街までお送り致します。あと、着ている服がボロボロですので差し上げます。』


そう言うと、青年は馬車の荷台から衣服を取り出す。


『大事な事を忘れていました。僕の名は、

『ルザス・アージャス』と言います。以後、お見知り置きを...。』


そう言うと、すっとお辞儀をするルザス。


『...ゆり。......です。』


同じく自己紹介をして、お辞儀を返すゆり。


『では、こちらの服を差し上げます。どうぞ、

馬車の荷台の中でお着替えください。』


ゆりに服を渡してそう言うルザス。馬車の荷台にいく。


『着替えが終わりましたら言って下さい。すぐに出発致しますので。』


『......ありがとう。』


そう言うと、ゆりは着替え始める。それから

15分後...。


『おぉ、お似合いですね!。希少素材の『ベルグォール』の毛皮を精密に縫って作られた『ナイラス衣服屋』のフードジャケットと同じく希少素材の『バリーシャ』の羽を使って

作った半ズボン。ゆり様は体が細いので、僕の

アビリティ『伸縮自在』を使って調整しました。着心地がいいと良いのですが...』


早い口調で衣服の説明をするルザス。着心地をゆりに聞く。


『....体が軽い。...大丈夫。』


片言に答えるが、ゆりの顔はとても喜んでいる顔をしていた。


『そうですか。良かったです。では、ここから

2日程で着く僕の街にご案内しますね。』


そう言うと、馬車の手綱を握りしめて、出発をするルザス。


『(ルザスさんの育った街...どんな所だろう...。)』


荷台の後ろで座りながら、そう考えるゆり。

馬車は、草原の上をゆっくりと進んでいく。


『あ、そうでした。ゆり様、ここから先は

少しガタガタした地形を進みます。しっかり

捕まってて下さい。』


ゆりの方へ顔を向けて、そう伝えるルザス。


『........ん。』


軽く頷くゆり。


馬車が移動している場所から数メール離れた所に、ボロボロの石と木で作られた橋があった。そして目の前まで来ると、ルザスは自身のアビリティを発動させる。


『アビリティ『伸縮自在・距離短縮』。』


ルザスがそう言うと、長い橋が約5〜10メートルまで短くなった。ルザスの『伸縮自在』は、

物や植物、建設物といった『自分の意志で動かない』ものの距離や長さを変える事が出来る。しかし『自分の意志で動くもの』は変える事ができない為、戦闘向きではない。ちなみに、伸縮させる規模が大きければ大きい程

効果時間が短くなってしまう。


約3分程で橋を渡り切る馬車。その後、短くなった橋は元の長さへ戻っていった。


『怪我はないですね?では、また出発致します。落ちない様に注意して下さいね。』


そう言うと、再度手綱を握りしめて馬を歩かせるルザス。この時、ほんの少しだけルザスの額から微量の汗が垂れていた。


『ルザス....さん、そのアビリティって...弱点がありませんか?...』


出発した直後に、ルザスに向けて言うゆり。

この時一瞬、周りの風が強く吹いた。聞かれたルザスは、一瞬ビクッと反応したが、その後、落ち着いて話し始めた。


『....バレましたか。何故分かったんです?』


少し暗い表情をしながらゆりに聞くルザス。

ゆりは、片言ながらも正直に言う。


『微量の汗....若干速くなった心臓の鼓動....、

それに息が...荒いから。』


少し心配した口調で言うゆり。それを聞いた

ルザスは、少し落ち着いてゆりに話し始めた。


『僕は、生まれつき『魔力過剰体質』なんです。どう言うものかと言いますと、魔力を使ってアビリティを発動させると発作や激痛、汗が出てくる症状なんです。1回ならまだ大丈夫なんですが、何回も発動させるとどんどん悪化してしまうんです。幼少期は特に酷くて、

毎日布団でうなされながら暮らしてました。

その時、近くで看病をしてくれた母は僕が17歳になって、この運搬仕事を就いた1年後に...

亡くなりました。この体質は、今もまだありますが魔力の制御やアビリティの出来る限りの発動を抑えながら毎日暮らしてます。』


自身の過去や秘密をゆりに話したルザス。その時のルザスは、少し暗い顔をしていた。


『.....すいません。』


余計なことを言わせてしまったんじゃないかと心配するゆり。その時、少し沈黙の時間が

あった。その後、ルザスが話し出す。


『いいえ、謝らなくていいですよ。こうして、

自分の過去を他人に話せる時がきて、それに、

私の話を真剣に聞いてくれる方がいてくれて、

僕は嬉しいですから!。』


ルザスはそう言うと、ゆりの方へ顔を向けて

ニッコリと微笑んだ。その表情は、陽の光で

美しく輝いていた。


『おっと、話に夢中になってたら見えてきましたよ!私の育った街『タナンヤ』が。』


この時はまだ知らない。タナンヤで、とある

危険が来る事に.....。


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