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 天使は深夜にブラウン管でケーブルテレビを観ていた。


 「…話は戻りまして、心の無秩序が最大の敵ともいえないでしょうか。心はいつも、簡単に乱されるものです。エントロピーの増大則といいまして、物質つまり自然界は、放っておくと時間の経過とともに崩壊し、無秩序に、つまりカオスと化していきます。プリゴジンらによって証明された科学法則です。だから、心も放っておくと、無秩序になっていって苦しくなるのだとチクセントミハイは言いました。ですから心は整えたり、ニュートラルに戻すことが必要になってくる。

 そもそも物理がそうなっているということですが、実はエントロピーの増大則に逆らうのが生命であるともいえるのですね。どんどん拡散して無秩序化していく環境の中で、生命は自ら情報を創り出すことができる。この情報こそが、実は秩序だといえます。情報は、より無秩序な環境においてこそ、より秩序の高い質、状態が可能であるという性質をもちます。そして反復ですが、生命は自ら情報を生み出すのです。

 どんどん無秩序さを増していく世界で、生命はそのカオスを捉え、より複雑な秩序に作り替えることができる。これを科学用語で「散逸構造」といいます。この作用こそが人間が進歩・発展していける原動力とはいえないでしょうか。生命にはそれが備わっている。

 環境は複雑さを増していくので、定常化、つまり一度その状態になればずっと大丈夫だということはありませんが、たびたびカオスに出合いながらも生命は発展していけるのです。カオスも必要悪というか、乗り越えてより発展できるために必要な問いかけではないかと私は思います。

 さて、フローとはメンタルの秩序が「意味のある目的に向かって」最適化されることでしたから、外部環境には左右されません。外面的な事実よりも、内面の真実がものをいうんですね。ニーチェは「生きる理由を持つ人は、どんな生き方にも耐えられる」と言いましたが、目的を持つこと、自分が何を欲して、何を手に入れたいか、自分の内なる声を聴くということ。スティーブ・ジョブズも言いましたが、心はつねに知っている。これからはそういう時代じゃないかと思います――」

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