24
ぼくは不吉な夢を見た。夢の中では、抗えない一つのシナリオの中に閉じ込められていた。
夢はある場面から始まる。
横にいるだれかがぼくの顔を見れず突っ伏している。頑なに。
意地を張っている。素直になれずにいる。
ぼくは隣でじっとしている。
だが、それを受け入れて抱き寄せる。
なし崩し的で有耶無耶な仲直りだ。
しかし、それがだれなのかはわからない。
夢はある場面へと移り、ぼくはだれかと向かい合って座っている。どうやら別れのシーンだ。
振られたショックがあまりにも大きくて、何を言われたかは覚えていない。何も言われなかったのかもしれない。それがだれなのかもはっきりと思い出せない。ただ、そのだれかは席を立って店を出て行った。
ぼくは追いかけられなかった。それが果たしてだれなのかわからない。
ぼーっとしていた瞬間、前からボールが飛んでくる! グラウンドで小学校のクラブをしていた! コーチの罵声も飛んでくるが、ぼくはまだ準備していない!
気がつくと次の場面へと切り替わっている。
広場の公園の、空まで伸びる湾曲した三本足の、とんでもなく高い遊具の上からぼくは降りられないでいる。足がすくむ。ふらついて泣き出しそうだ。
そこへトンビが空から襲ってくる。うわっ!と思った瞬間、踏み外して下へ落ちかけ、ぐらつく。落ちた!と思った次の瞬間。
ぼくは広い大教室に座っている。人がざわざわ大勢いる。どうやら大学の大講義室だ。ぼくは一番後ろに座っている。いま授業に到着したばかりだ。
すると、前から次々に人が立っては、ぼくの後ろのドアへと歩いてきて退場していく。授業だと思っていたのは学期末試験だったとわかった。気がつけば、ぼくは何も準備していない。しまった、と焦る。筆記用具を探す。しかし教授が告げた。
「今日いらした方に単位は認められません」
ぼくは愕然とする。いつまで大学生でいるんだ!?
夢は終わらない。続きへと移る。
ぼくはどうやら手持ちのカネがない。貧して鈍している。握りしめた請求明細の、クレジットカードの使用履歴にどれも心当たりがない。
仕方なく食事を一食抜く。やれることはやる。腹が減っていてどうしようもなく悲観的になる。
背に腹は代えられず消費者金融のATMに入る。無担保の借金に手を出し、鼻持ちならない信用の前借りで食いつなぐ。借用証書のレシートを見ると、金利が日歩(ひぶ)で三十三パーセント……来月には十倍に膨れ上がる……。
さらに夢は変わる。ぼくは自分の足を触っている。足の裏の皮を削っている。鉋(かんな)がけのようにピーラーで剥(む)いている。魚の目がある。押すと痛い。タコになっていて、堅い芯がある。それをえぐり取ろうとする。液体窒素で瞬間冷却する。コテを押しつける。凍り付かせて〆(しめ)る。焼を入れる。
そしてくり抜く。神経がズキズキする。穴が開いてへっこんだ、赤ちゃんの肌がのぞく。
やがて、ぼくの額に吹き出物ができている。鬱血して、大きく赤く膨れ、盛り上がってこぶができている。それがひりひりと疼いている。ぼくはそっと触診して確かめる。熟(う)れているかどうか。
ぼくはそれを潰しにかかる。指と指で挟んで両側から圧迫する。血流が一ヶ所に押し固められる。すると先端の火口が破裂する。前に立っていた鏡に飛び散る。空いた穴からどろっとした、緑(りょく)白色(はくしょく)の膿が流れ出る。腐敗した白血球。死んだ体液の色。
そのあとを、どす黒い無駄な血液が追って流れ出る。押しても押しても足りない。まだまだ溢れてくる。拭き取りきれないほどの大量の血と膿。いつまでも止まらず出てくる。ぼくのなかに溜まる老廃物。滞る毒。皮膚を突き破って滲み出た汚物……。
ぼくは最後の一滴まで血を搾り取り、抗生物質を塗って蓋をした。
しかし、また再発するのだろう。
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