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 ある晩、天使は何やらブラウン管でケーブルテレビを観ていた。大学教授が出演する教養番組のようだ。


 「…グノーシス主義にとって、肉体は悪です。そして肉体ありきのこの世界、宇宙の万物自体が悪だと考えます。この物質世界を創造した神、つまり造物神も悪で、善である至高の神が別にいるのだと主張します。闇と光と言い換えてもいいです。

 そして、魂は解放されると、光の至高神のもとへ、「いにしえの故郷」へと還っていくといいます。個々人の救済は、このことを認識して、それにふさわしく生き、肉体の死後、造物神の支配する領域を突破して、その彼方の光の世界へ回帰することにあると説く。

 これは一神教の主流な教えとは相容れない考えです。一神教では、人間は神に造られたものであり、この人間対神の関係は絶対に覆せないものですから。でもグノーシス主義は、本当の神は自分のなかに一部としてあるから、いわば「めざめよ」と言っているのですね。なので、これはまさしくこれからの時代にぴったりだと思うわけです。

 どういうことかと言いますと、要は従来の枠組みがこれ以上機能しない、既存の秩序がどんどん倒れていく中で、新しい枠組みへの転換が生じます。今までの正統が崩れて、異端とされていたもの浮かび上がってくる。

 べつに、宗教としてのグノーシス思想が流行していくと言いたいわけではないのです。ただ、この象徴的現象、異端と正統が切り替わるメタファーというのは、まさしく今後起きてくることだと思うのですね。

 自分の外側、つまり周りはすべて崩壊していくんです。従来型の枠組みに囚われていると。デフォルトしますから。でも、そうじゃない在り方があると目覚めて、新しい方向に踏み出していく。自分を信じて、心の声に耳を傾けて進んでいく。

 これこそがまさに重要で、今後ますます意味があると思って、私のいいたい「グノーシス」ということの中身であります――」

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