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……何だい、それ?
ある日、天使が部屋で椅子に腰かけて何やらハガキを書いていた。
……誰宛て? とぼくは聞いた。
「ラジオの投稿だ」と天使は答えた。
なんでも、天使は知り合いにラジオDJがいるというのだった。どうやら、その知り合いにあえて投稿者の立場からコンタクトを取ってにぎやかすのを、彼は趣味の一環にしていた。天使とはそういうやつだった。
そして、彼の知り合いのラジオDJは、別の天界に所属している人物とのこと。さらには、別々の天界同士に公共のラジオ放送がいくつかあり、下界からでも波長を合わせさえすればそれは受信できるというのだった。
……なんだか、生きていればそういうこともあるのか……と、ぼくは気が遠くなりながらも思った。
「聴きたければ聴いてみろ」と天使が言う。
ぼくは天使の部屋にある壊れかけのラジオで、その放送を聴いてみた。
「…天界FMよりお届けする、『こちら天国。そう、エンジェル』。今週もやってまいりましたー、どうぞよろしくお願いします。ご機嫌いかがでしょう?
ナビゲーターわたくしの天界では、眼下に広がる人間界の監理を生業(なりわい)としております……。役割としては、人間界の混沌と秩序のバランスを整えることであります。大切なのは、きちんと秩序立て過ぎてもいけないし、混沌とさせ過ぎてもいけないということ。……この塩梅(あんばい)がまた難しい!
もっとも、二一世紀を四半世紀ほど過ぎた今日この頃では、わたくし共が介入しなければ、常に混沌過多な状況であります。困ったものです。とかく人の世は住みにくい!
元来、人間たちに取り憑く混沌とは以下の問いでした。
・一体何のために生まれ、本当は何をしたらいいのでしょう?
こちら天国。これこそ、およそ人間に「意識」というものが芽生えて以来、三〇〇〇年間寄せられ続けているお悩みハガキです。もう、ほとほと聞き飽きました! しかし、今日(こんにち)の人間たちの抱える悩みのトレンドは少し奇妙です。
・何も意味を感じられません
こちら天国。不感症の人間が増えているというのです。だれかが意味を泥棒しているとでもいうのでしょうか? 一体これは弊天界のどの部署の責任でしょうか?
事(こと)程(ほど)左様(さよう)に、意味を見出せなくなって人生に立ち止まってしまう人間は多いです。もっとも、「意味」というものは人間界特有の産物で、いくらでも自由に創り出せるものなのですが。それを離さずに持っているのは大いに難しいようです。まったく人間たちは、自らの内側に囚われている……。
大切なのは自分が何であるか知っているということなのに、人間たちはみな関係のないことに解決策を見出そうとしています。もしも全員がそのことに気づけば、今にも世界は変わるというのに。しかしご存知の通り、たとえ必要十分な数でさえ、人間たちがそうなることはないのでした。やれやれ、まったくもう……。各界の天上のリスナー方も、思うところあるのではないでしょうか? さて、今週の番組企画に移り――」
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