14

 ぼくらのバンド『ポッピング・シャワー・クロニクル』は、テレビ出演の前にワンマンライブが控えていた。さらにその前に、ぼくらは気分転換に大自然の中にキャンプに来ていた。

 ずっと走り続けていたし、事はぼくらの読みと実力以上に大きくなってきてしまっていたから、骨休めにレジャーに出かけた。

 不穏なニュースが続いていたが、のどかな自然に囲まれて過ごした。他にはだれもいなく、山間(やまあい)に川が流れていた。


 「写真撮ろうよー」とケイコが言う。

 持ってきていたポラロイドカメラをスタンドにセットして、三人並んで撮る。

 こうしてぼくらは公式にではなく、プライベートで写真を撮った。

 撮れた写真を見ると、どれも天使は視線を外している。

 ぼくは天使に、なんで写真に映りたがらないのか聞いた。

 天使は写真は時に醜いものを映し出すと言い、「写真以外にも記憶は保存できる」と言った。「おれはその方がいい」

 写真には想いが映るとケイコは言い、「写真は紙で残したほうがいいよ。ぜったい」と言った。


 三人並んで写真を撮っていたとき、カメラの後ろにやはりいつも見かける少女がいた。

 「見えないけどなー」と、ぼくの相談に対してケイコは言った。

 そして天使にも見えないものがあると知った。


 ぼくらは川で魚を捕り、夢中になってはしゃいだ。あるいは木の切り株をまな板に料理をし、ボートで川下りもした。

 「おいやめろ」と言う天使を、ぼくとケイコで川に突き落とした。水から這い上がり、翼をぶるぶるさせると、彼はスーツごと一瞬で乾いていた。


 「天ちゃんはああ見えて人のこと放っとけないから」と、ロックバランシングに熱中する天使をよそに、ケイコは言った。

 ケイコはぼくの気を抜くと現れる悲壮なオーラを察する。さすがは女の子だ。

 「まあ、いろいろあるけどさ」と横でケイコが言う。

 「何でも大丈夫じゃん。きっと。晴れに変わるよ」

 そう言われて、ぼくはどこか救われる思いがした。いいときのケイコの楽観さが羨ましかった。


 灰が降り続く空は、その日めずらしく晴れていた。


 夜になり、焚火を囲った。

 みんな楽器が弾けるので、一人ずつ披露しあった。自分たち以外の曲をやって盛り上がった。ぼくはこうしてだれかに弾き語りを聞かせたような記憶がよぎった。

 天使は焚火の前に腰かけて、瓶の酒を飲んでは肩越しに後ろに放り、また手から出して飲んでは、ゆらゆらと揺れる炎を見続けていた。

 ケイコも体育座りをしてじーっと火を眺めていた。

 ぼくはそんな二人を呆然(ぼうぜん)と見ていた。そして星空を見上げた。

 その頃世界は少しずつ崩れ始めていたから、夜空に幾筋もの彗星が流れていた。この空を見ればきっと、戦場の兵士たちも武器を捨てて、家に帰るのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る