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ポッピング・シャワー・クロニクルの快進撃は止まらなかった。
次から次へとライブをこなし、話題が話題を呼んだ。少しずつ会場のキャパが膨らんでいった。
ぼくたちが先に仕掛けておいたプロモーションのおかげか、注目は早く集まった。
ぼくたちを見たことがある人はみんな思っていた。
「歌もいいし、演奏もいいけど、あの翼つけたやつ何だ?」
巷の人たちは天使を天使だと思っていなかったが、エレキギターを低く構えてそっぽを向いて弾く立ち姿は、次第にミーム化されていった。
バンド名とビジュアルのせいもあって、最初ぼくらをコミックバンドだと思う人たちも多かったが、ぼくらは自分たちをロックバンドだと自認していた。
人々の想像が先走りし、計画が前倒された。
当初のライブの予定を消化しきり、さらに四、五本のステージを踏んだ後、『PSC』初のワンマン公演が決まった。小さくても念願の舞台だった。ケイコは飛び跳ねた。ぼくはぐっとガッツポーズした。天使は澄ましていたが、しれっと新しい衣装を注文していた。
さらにそれを控えていたある日、とある番組で某有名ミュージシャンが、今注目のバンドとしてぼくらのことを言及した。それをきっかけに、あるプロデューサーがぼくらのライブの視察に訪れた。
終演後楽屋にいたぼくらは自己紹介を受け、とあるオファーを提示された。そしてその夜、あろうことかテレビ出演が内定してしまったのだった。
しかもだ。それはゴールデンタイムの音楽番組で、生放送でのパフォーマンスだった。それは自分が子供の頃から観ていた番組でもあった。まさかこんな日が来るとは。
今あらためて思えば、ぼくらは完全に色物(いろもの)枠で、つまみ食い程度の好奇の対象として番組に呼ばれていた。世間は暗く、話題の少なかった当時だ。流行(はや)りのぼくらを食い物にしてしまおうとする、大人たちの思惑を感じないでもなかった。だが、メンバー同士で話し合い、やってやろうという結論になった。
ぼくらは雑誌の取材を受け、インタビューに答えた。
・人気沸騰中ですが、今の心境はいかがですか?
「歌ってるときが一番幸せなんですよね」とケイコが答える。
ちょっと信じられないですね、とぼくが答える。
「伝説になりたいですね」と天使が答える。
・魅力ある楽曲づくりの秘訣は何でしょうか?
「こう、思ったことをわぁーっ!と表現することです」とケイコが答える。
「壊れないと良いものは生まれない、です」と天使が答える。
バランスを取ることを心掛けてます、とぼくが答える。
・『ポッピング・シャワー・クロニクル』結成の経緯を教えてください。
「必然です」と天使が答える。
有無を言わさずです、とぼくが答える。
「奇跡です」とケイコが答える。
・テレビ出演も決まりました。今後の意気込みを聞かせてください。
「滅びの美を体現したいです」と天使が答える。
行けるところまで行きたいです、とぼくが答える。
「……」とケイコは考えたあと「毎日を楽しく生きたいです」と答えた。
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