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 王国の滅亡する様を、救疫生書きゅうやくせいしょから引用しようと提案したのはクララだった。〝集会〟の席で彼女は背筋を伸ばすと、咳払いを一つして、声に出して読み上げた。


 地は乾き、衰え

 世界は枯れ、衰える。

 地上の最も高貴な民も弱り果てる。

 地はそこに住む者ゆえに汚された。

 彼らが律法を犯し、掟を破り

 永遠の契約を捨てたからだ。

 それゆえ、呪いが地を食い尽くし

 そこに住む者は罪を負わねばならなかった。

 それゆえ、地に住む者は焼き尽くされ

 わずかの者だけが残された。


「ね、それっぽいでしょ」とクララが笑う。使っていいのかな、とマリナが懸念を口にし、いいんじゃない、とアポロニアが頬杖をついて言った。

 あの時は、結局どうしたのだったか。メモを見ると、保留、と書かれている。それ以降、物語が更新された様子はない。

 あの頃、私たちは無邪気だった。信ずるべきを信じ、語ることを躊躇わなかった。

 世界を知れば知るほど、言葉にできることは減っていく。共に分かち合えたはずの思いは煩悶の波に削られて、残ったわずかばかりの滓を、大切に抱えることしかできなくなる。

 始めてしまったお話は、どこかで終わらせなければならないのだと悟った。半端だろうと、心残りがあろうとも、終わりの時を宣言する責任が、私たちにはあるのだと思う。

 言葉が描く肖像だけではない。人が辿った時代もまた、同じように終わりを迎えていく。

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