第一話
一方で、一切のSNS運営、サイン会を行わず、そのベールは謎に包まれている。一説によると、顔出しの記者会見が嫌で芥川賞・直木賞を断ったとかいないとか。
「――以上、Wikipediaより引用」
二呼吸分くらいはあっけにとられていた。
とにかく声がよかった。聞き取りやすく、男性とはまるで違う女性の声で、かといってきゃぴきゃぴはしておらず落ち着き、安心する。
が、感心している場合ではない。
「……アナウンスの練習は活動場所でやれよ」
なんとか返すのが精いっぱいだった。
「否定、しないの?」
目をぱちくりとさせて、江別は恐る恐る問うてくる。
「突拍子もない話過ぎて否定する気にもなれない」
今度こそ帰ろうとして、江別はすっと封筒を差し出した。
何の変哲もない茶封筒。
「……なに」
まさかラブレターじゃあるまいし。
「その、神戸君あてに、預かってて」
「誰から?」
「先輩から……放送部の」
面識は当然ない。誰かを助けたり助けられたり、ましてや迷惑をかけたりかけられたりなんて、わかる範囲ではしていない。
ましてや他学年なんかとは。
トラブルなんてごめんだ。
無言で突き返す。
「あの、読んでほしいって」
「そっちはそうでもこっちは読みたくない」
「で、でも」
「しつこいよいい加減。こっちも入学早々目立ちたくなかったからうっとおしい勧誘も自分でかわしてきたけどさ、いい加減先生に言っても――」
江別は青い顔をしてぶんぶんと首を振る。
「あの、ほんとに、放送部には入ってほしいけど最悪入らなくてもいいから、その手紙だけはすぐに読んだ方がいいと思う、クラスメイトとして、言うけど、ほんとに、無視したらまずい相手、だから」
短い間だけれど見てわかる。江別さくらは嘘がつけない。
放送部の先輩とやらは、本当に恐ろしい先輩なのだろう。
諦めが悪くも心優しきクラスメイトに敬意を表し、封筒を破る。
達筆な筆文字で、半紙にでかでかと書かれてあった。
【秘密をばらされたくなければ、放送部に入りなさい】
――ハルミは理解した。
余計なことをしたのは、この手紙の主に違いない。
どうやってだか個人情報を握って、江別に厄介な情報を吹き込んで。
また、生活に執筆を持ってこさせようとする。
力をこめて、ぐしゃりと手紙を丸める。
「……神戸くん?」
「江別、放送部の活動場所、案内してくれる?」
「え、入ってくれる――」
「入るなんて言ってない。ちょっとこの先輩に会って話したくなっただけ」
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