春と夜更かし

香枝ゆき

プロローグ 

「だから、俺は書かないし入らないって何度も言ってるだろ」

 昼休み。図書室前で、神戸陽水かんべはるみは何度目になるか分からない断り文句を言った。

「でもお願い!神戸くんしか頼める人がいなくて!」

 これまた何度目かもわからない返答。堂々巡りである。

 ここまで情熱があるのなら、いっそ別の方法を試してみてくれたらいいのにと思う。

 しつこく食い下がってきているのは、同じクラスの女子生徒、江別さくら、放送部。酔狂なことに、帰宅部生活謳歌中のハルミを今も勧誘し続けている猛者だ。

「原稿書くだけなら、入学式の新入生総代にでも頼んだらいいだろ」

「どうしても、神戸君がいいの!」

 何度断ったかは面倒くさくなって忘れてしまった。だからだろう。

 いつもは話を切り上げてまいて帰るっていうのに、どういうわけだか話を続けてしまった。

「大体、なんで俺だってんだよ」

 率直な疑問ではあった。

 大方、春のうちから一年生で帰宅部なんてしているのは自分くらいしかいないからだという回答がくると思っていたけれど。

 予想に反して、江別はまわりをきょろきょろと見回すと、さきほどまでとはうってかわって、声を潜めて言ったのだ。

「…………だって、神戸君って、小説家でしょう?プロの」

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