第14話 無力

 杉田からその日中に明美の情報が上へ伝わり、翌日には対特殊生物対策隊の特殊隊員ベータとして怪獣駆除に従事することになった彼女は、戦闘用スーツを作るため採寸を受けたり、肉体の状態をチェックするために検査を受けたりした。

「はー、疲れた……まさか採血だけじゃなくて皮膚も取られるとはね」

「怪人細胞を発見するためだ。研究が進むまで、我慢するしかない」

 対特殊生物対策隊本部にて、そう大村が明美に返す。

「それで? 私のメインの仕事は怪人退治以外に何かあるの?」

「主に報告書作りだな。面倒だぞ。書かなくちゃいけないことが山ほどあるからな」

「書類は苦手」

 そんななんでもない会話をしていると、樋口も会話に参加してくる。

「それにしても富士さん、人体強化薬を打っても無事なのね。調査によると失敗したケースもあるらしいから、成功してホントよかったわ」

 樋口がそう言いながら伸びをしていると、杉田隊長の電話が鳴り、対特殊生物対策隊に出動命令が出た。


 藤岡住宅地に現れた怪人は口から火を噴き、近くにある家を片っ端から燃やしていく。

「なんてことだ……消防はまだか!?」

「到着まであと七分はかかるそうです!」

「クソッ!」

 大村はそう言いながらマスク酸素マスクをつけると、燃える家に向かって走り出した。

「ちょっと!? 危ないわよ!?」

 蒲池の叫びを無視して彼は燃え盛る炎の中へと飛び込んでいく。

 大村は、生き残った住民の姿を探しながら、一部屋一部屋確認していく。

 熱い炎が舐めるように大村の体を焼くも、彼はぐっと堪えて寝室にいた子供を抱えて建物を出る。

「はぁっ! はぁっ!」

 大村が救急隊員に子供を渡し、肩でしていた息を整える。

「大村さん! 大丈夫!?」

 樋口が駆け寄り、怪我の度合いを確認する。

「うん、うん。命の危険はなさそうね。全く、危ないじゃない! あなたはもう強化された体じゃないのよ? もう少し自分を大事にして」

「同感だ。君の人を助けたい気持ちも分かるが、君も死んでいた可能性がある。飛び込む前に、まず指示を乞うこと。いいな?」

「はい、すみません……」

 大村は素直に謝ると、怪人への対策状況を確認した。

「あれ、生きたままの捕獲に成功したんですね。珍しい」

「ああ、麻酔弾が効いたのと、富士が気絶させてくれたおかげもあってな。これで治療できるかどうかの研究も進むことだろう」

 杉田はそう言いながら上への電話をかけるために電話のボタンを押した。

「どうだ中谷? 怪人の現れる場所は予測可能になりそうか?」

 一人真面目にパソコンとにらみ続けていた中谷にそう大村が問いかけると、中谷が両手を上げる。

「無理。お手上げ。怪人の出現場所に規則性は見つからず。同時に二体以上離れた場所で発生する場合もありますしね。なにがなんだか……」

「ふむ……」

 データを眺めながら大村も考える。

 そこに、戦闘用スーツを脱いで着替え終わった明美が合流した。

「お疲れ様です。これから報告書を書かないといけないんですよね?」

「ああ、そうだ。よろしく頼むよ」

 丁度電話を切った杉田がそう返す。


 大村は隔離部屋に一旦帰ると、着替えてスーパーに夕飯を買いに行った。

「お、今日はついてる」

 大村は半額のシールの張られた寿司のパックを手に取りかごに入れると、他にもビールやキュウリの浅漬け、フリーズドライの豚汁などを購入した。

 その帰り道、大村は男二人に声をかけられた。

「大村英光か?」

「ええ、そうですけど」

 いつも通りそう返事をした次の瞬間、大村の視界に星がとんだ。

 男たちは大村を挟んで殴り出した。

「離れなさい!」

 少し距離を置いてついてきていた蒲池がそう言って銃を構える。

「行くぞ」

 男たちは攻撃をやめるとあっさりと撤収していった。

 大村の変色した痣や、変に曲がった鼻を見て、蒲池は肩を貸す。

「病院に行きましょう。酷いわね、どうして反撃しなかったの?」

 その質問に大村は答える。

「彼らは人間だ、理性のない怪人じゃない。俺を殴ったのにも、きっと理由があるはずだ」

「そりゃあ逆恨みか嫉妬じゃないの?」

「だとしても、俺にはそれを受け入れなくちゃならない。自分の取った行動の責任を取らないと……」

 それを聞いた蒲池は呆れながら言った。

「変に真面目なんだから……そんなんじゃ本当に死んじゃうわよ? なにごともほどほどを見極めないと」

「ああ、そうだな」

 大村は苦笑いを浮かべて答えた。

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