第15話 超怪人

 大村が病院で治療を受け、隔離部屋に帰り寝ていると、部屋の中から声が聞こえてきた。

「怪人28号、聞こえるかい?」

「聞こえないって言いたいけど、聞こえてるよ。どうやって入った?」

 大村は部屋の中に突如現れた富士に向かって即答する。

「ああ、良かった。まだ生きていてくれて」

 富士の声はどこか安堵しているようだった。

「時間がない、要点だけ伝えよう。君の仲間たちに私の研究所まで来るよう伝えてくれ。その近くには強力な怪人がいるともな」

 大村は驚いた顔をすると、富士に尋ねる。

「なんでそんな情報をくれる?」

「まあ、こちらも色々と訳があってね。怪人を処分して欲しいんだ……それじゃ、娘によろしく伝えておいてくれ」

 大村の返事も待たずに再び姿を消した富士のいた方をしばらく彼はボーっと見ていたが、今日はもう遅いため、明日伝えればいいかと考え寝なおした。


 翌日、富士から聞いた情報を全員に報告した。

「どういう風の吹き回しかは分からないが、怪人は減らしておくに越したことはない。罠の可能性も考慮して中谷と大村、それに蒲池は本部に残れ。現場には俺と富士、樋口で向かう。いいな?」

「「「了解」」」


「いやー、本部で待つだけってのは辛いなー。この間置いて行かれた大村さんの気持ちが痛いほどよく分かるよ」

「辛いだろ? 仲間が危険になっても指をくわえて見てるしかないんだからな」

 ぼやく中谷に大村がそう言って缶コーヒーを手渡す。

「お、あざます」

 中谷は大村に礼を言うと、それを一口飲んだ。

 その時、部屋の扉が開き、蒲池が入ってくる。

 その顔は緊張で強張っていた。

「どうしよう、どうしようどうしよう……」

「落ち着け、なにがあった?」

 大村が尋ねると、蒲池が震えた声で言った。

「先週買ったナンバーズ、全部的中してて二十万円も当たっちゃった!!」

 そう言って珍しくはしゃぐ蒲池の姿を見ながら、中谷は呆れた。

「そんなの確認してる暇があったら隊長たちのバイタルチェックと現在地のモニタリングちゃんとしておいてくれよ……」


 富士に指示された自称研究所に三人はつくと、建物を見上げた。

「これが……研究所?」

 樋口が疑問に思うのも仕方がない。なぜなら見た目は完全にガソリンスタンドだったからだ。

 ネオンの看板には『マウンテンスタンド』と書いてある。

 三人が戸惑っていると、後ろから声をかけられた。

 振り返るとそこには、白いシャツにジーンズというラフな格好をした青年が立っていた。

 年齢はおそらく杉田と同じくらいだろう。

「父さん……」

 青年を見た明美がそうこぼすと、彼は笑顔で話しかけてきた。

「やあ、私の研究所へようこそ。外は寒いだろう? 中で話そう」

 スタンドの中へと入っていく富士を見て、杉田たちもそれに続いた。

 スタンドの中には、所狭しと様々な機器が置かれており、壁一面の棚には大量の資料が詰め込まれていた。

 中央に置かれた机の上にはフラスコと試験官、ビーカーなどの実験器具が置かれている。

 富士は机の前に立つと、三人に椅子を勧めた。

 全員が座ると、富士は語り出した。

「さて、まずは自己紹介をさせてもらおうかな。私は富士明美の父、富士光太郎だ。君たちの名前を教えてくれるかい?」

 杉田が代表して名乗る。

「私は対特殊生物対策隊隊長の杉田です。こちらは隊員の樋口と、君の娘の富士だ」

「おや、三人だけか。怪人28号はどうした?」

「それは大村のことか? 彼は君の誘いが罠だった場合に備えて別の場所で待機している。

 本題に入ろう。君の目的はなんだ?」

 杉田がそう言うと、富士の顔つきが変わった。

 彼は机の上に置いてあったアンプルを取ると、それを杉田の方へ投げた。

 反射的に受け取った彼は中を確認する。

 そして彼は、その薬がなんなのかだいたい見当がついていた。

「人体強化薬、か?」

「正解。実はそれを怪人化した奴に打ってみたんだが、その、実験が上手くいかなくってね。理性はないのに力だけ強い怪人を超えた怪人、超怪人を生み出してしまったんだ。

 いやあ、これがなかなかのやっかいごとでね、捕縛しておくこともできないし近くの常盤の森に姿を隠したきり出てこないんだ」

 そう言うと富士は指を鳴らす。

「そこで君たちのことを思い出したってわけだ。怪人退治はもうお手の物だろう? 頑張ってくれたまえ。話は以上だ。解散! 出てった出てった!」

「まて、こちらからは聞きたいことが沢山──」

 杉田が言い切る前に気がつくと富士の姿は不思議なことにスタンドから消えていた。

「──あるんだがな。まあいい。場所は分かった。本部の三人も聞こえたな? これより駆除の準備に入る。いいな?」

「「「了解」」」

 本部にいる三人は元気よく返事をすると、各所に連絡を始めた。


 三十分後、常盤の森は封鎖され、中には臨時作戦指示本部が置かれ、駆除部隊が怪人の捜索を行っていた。

 明美は戦闘スーツを着て待機、大村は捜索に参加しようとしたが、杉田に声をかけ止められた。

「大村、君もここで私たちと待機だ。君にはこの作戦における最終手段として参加してもらう」

 それを聞いた大村は疑問に思う。

「最終手段って……俺、今は何もできませんよ?」

「ああ、そうだな。今は、な」

 そう杉田は意味ありげに言葉を濁すと、ニッと微笑んだ。

『こちらF隊。怪人を発見。繰り返す、怪人を発見』

「こちら本部了解。駆除隊は目標ポイントまで移動し待機。特殊隊員ベータを出動させる」

 明美が艶消しのされた深紅のフルフェイスマスクをかぶり、本部を出て森の中へと目にもとまらぬ速さで走っていった。

 その姿が、大村には少し羨ましかった。

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