第4話 敗北

 翌朝、大村はテレビを見ながら朝食をとっていた。

 画面ではちょうど怪人を倒した大村の姿が映っており、アナウンサーやコメンテーターたちが賞賛していた。

 その光景を見て、大村は何とも言えない気持ちになった。

 そこへ、鮫島が携帯をもって近づいてくる。

「ネットでの評判もかなりいいですね。ただ、警察は今後必要なら指名手配もいとわないと言っているので、少し怖いですけど」

「怪人は一昨日から昨日にかけて全国二十三ヶ所に出没してる。全てを相手することはできないが、できる限り手の届く範囲で活動していこうと思う」

 大村はコーヒーをすすりながら、自分にできることをしようと心に決めた。

 直後、インターホンが鳴り、二人の空気は一瞬にして凍り付いた。

「警察か?」

「見てみましょう」

 大村と鮫島はそう言ってインターホンのカメラで外を確認すると、そこに立っていたのは佐藤だった。

「マズい、昨日の警察だ。鮫島は玄関を開けて対応してくれ。無事に済んだら電話しろ。俺はベランダから飛び降りる」

「分かりました」

 そう言うと鮫島は玄関へ向かい、大村は窓に近づいた。

 ベランダに出た大村は、下の様子をうかがう。

 するとそこにはパトカーが一台止まっているのが見えた。

 大村は意を決して飛び降りると、車の上に着地し、地面へ下りると、パトカーに乗り込んで無線を盗み聞いた。

『石ノ森科学館近くにて死傷者多数。例の怪人の犯行と思われる。繰り返す──』

 それを聞いた大村はパトカーを降りると急いで科学館の方へと走り出した。

 走りながらスーツに着替え、コートを羽織る。

 そして到着と同時に高く跳躍し、怪人を発見した。

 怪人と相対し、戦闘が始まった。

 今回の怪人は昨日戦った赤色の怪人と姿が似ていた。

 「覚悟しろ!」

 しかし、大村の攻撃はことごとくかわされていく。

(怪人に、攻撃を読まれている……?)

 大村は焦るあまり、隙を生んでしまった。

 怪人が大村の脇腹を殴りつけると、大村の体は宙を舞った。

 大村は地面に叩きつけられ、痛みに悶えた。

 そして、起き上がろうとするも、腹部の激痛でうまく立ち上がることができない。

 よくよく考えてみれば、いくら強くなったとはいえ、痛覚は元の人間のままなのだ。痛いのは当然と言えるだろう。

 怪人はゆっくりと大村に近づくと、腕を振り下ろした。

 大村はそれを必死で受け止め、怪人の足元をはらった。

 バランスを崩した怪人はその場に尻餅をつく。

 大村はその隙を逃さず、怪人の腕を掴み、捻り上げた。

 怪人は鳴き声を上げ、大村の方を見た。

 大村は怪人の顔面を蹴り飛ばすと、再び怪人の体を掴もうとする。

 だが、怪人は抵抗し、大村の手を払いのけた。

 そして、そのままの勢いで大村に馬乗りになると、拳を叩きつけた。

 大村は何とかその攻撃を防ごうとするが、その攻撃でマスクが壊れてしまった。

 素顔が露わになり、その瞬間、大村はここ数日で一番死の危険を身近に感じた。

「うおおおおお!!」

 大村は雄叫びを上げると、力任せに体を起こし、怪人を放り投げた。

 そして、倒れ込んだままの怪人に逆に今度は大村が馬乗りになる。

 怪人は苦しそうな声を上げた。

 大村は力の続く限り何度も殴った。

 やがて、動かなくなった怪人の潰れた頭部を見ながら、荒くなった息を整えた。

「やるじゃないか。被検体4号。いや、怪人28号と呼ぶべきかな?」

 その声のする方向を見ると、そこには昨日目撃した白い見た目の怪人が立っていた。

「お前は誰だ?」

「私か? 質問に答える義理はないな、怪人28号。大人しくついてきなさい。でなければ、力ずくで連れて帰る」

「…………」

 大村は黙って再び戦闘態勢を取った。

「返事はノーか……やれやれ、秀明も厄介な男を選んだものだ。では、実力行使といこうか!」

 その人物は懐から銃を取り出すと、大村に向けて発砲した。

 大村は予想外の攻撃に面食らいながらも、ギリギリのところで弾丸をよけきった。

 しかし相手はその間に一気に距離を詰め、飛び膝蹴りを食らわせた。

 それを顔面にまともに食らった大村のマスクは完全に砕け散り、大村は脳震盪を起こして気絶した。

「今は眠れ、怪人28号。君はまだ世界を十分に理解していない。なにが正しい行動なのか、あとでじっくり教えよう」

 そう言うと謎の白い怪人は大村を抱え、どこかへ走り去っていった。


「おかしいなあ……」

警察を上手くごまかした後、鮫島は大村の携帯に電話をかけたが、大村は電話に出なかった。

「何かあったのなら……考えろ、大村さんならどうする? 俺が大村さんなら……」

鮫島は頭を抱えていたが、ある考えが閃いた。

「そうだ、ブログで怪人28号の目撃情報を募集しよう。きっと何か掴めるはず……」

そう呟きながら鮫島は携帯を使って急いで情報を募る。すると、

『石ノ森科学館にいたってさっきニュースでやってました!』

『28号じゃないけど白い怪人っぽいのが何かを抱えて藤岡埠頭の方へ走って行くのを見たぞ』

『見かけたけど怪人に負けちゃってた!日本ヤバいかも!』

ブログのコメント欄に続々と書き込まれていく情報を元に、居場所を絞り込む。

「ここら辺か」

 鮫島は大村を倒した怪人が向かったであろう大体の位置を地図に丸を付けると、警察に電話しながら、急いで玄関を出た。

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