第2話 感謝
道路を走りながら何度もかけなおしたが、相変わらず息子とは電話がつながらない。
息子の家に着くも、インターホンを押してみても返事がない。
慌ててドアノブに手をかけてみると鍵はかかっていなかったので、そのまま玄関に入り、靴を履いたまま家に上がった。
リビングへ向かうと、そこには血塗れで倒れている息子の姿があった。
「おい、おい秀明。大丈夫か?」
大村が必死で声をかけると、息子はわずかに目を開けた。
「父さんか……薬を飲んだんだね……ゴメン、俺死ぬみたいだ……」
大村は動揺し、救急車を呼ぼうとしたが、息子に止められた。
息子は大村に言った。
「父さんは俺の自慢の父親だよ……怪人をやっつけて、みんなを助けてさ……だからお願いだ、父さん。
みんなを、守って……怪人を倒してくれ……」
大村は涙を浮かべながらうなずいた。
ほぼ同時刻、円谷デパート石ノ森店にて、買い物をしていた男の一人が茶色い怪人へと変貌した。
客と店員が次々と襲われ、食い殺されていく。
その様子をカメラに収めようと撮影している者も前回同様いたが、それも長くは続かなかった。
突如現れたもう一体の緑色の怪人が彼らを襲い始めたからだ。
逃げ惑い混乱する店内で、緑の怪人も手当たり次第に人を襲い、爪から分泌される怪人細胞を注入して茶色い怪人仲間を増やしていた。
その情報が大村の耳に入るまで、さほど時間はかからなかった。
「行ってくる、秀明」
彼は息子の自宅で怪人28号のスーツに着替え、コートを羽織るとデパートに向かって息子のバイクで走っていった。
大村が到着した頃には、既に茶色の怪人は三十体にまで増えていた。
先に到着していたであろう警官たちはすでに物言わぬ肉塊と化している。
大村はすぐさまデパートの中を駆け、怪人たちに立ち向かう。
怪人たちが彼に襲いかかる。
大村は拳と蹴りで応戦するが、怪人たちのすさまじい量に圧倒されて防戦一方だった。
それでも大村は諦めずに戦い続けた。
やがて、最後の一体を倒し終えたとき、彼は膝をついて荒い息を吐いていた。
そんな大村のもとに、緑色の怪人が近づいてきた。
その怪人は先ほどまでは影で大村の戦いを見ており、大村の消耗ぶりを見て止めを刺しに来たのだ。
「なめるなよ……ここで倒れるわけには……いかないんだ……」
大村はついていた膝を持ち上げると、立ち上がり目の前の怪人に向かって拳を構えた。
その時、緑色の怪人の後ろから、白い怪人が現れた。
大村は直感的に悟った。この怪人は今までの怪人とは違う。
この怪人は間違いなく強い。
大村はそう感じた。
そして、白い怪人が口を開いた。
「ザーバ、ジンギトババナリニ、ダ、ギグロンモバギット」
未知の言語を緑の怪人に向けて放ったそれは、次の瞬間緑の怪人の胸元に持っていたナイフを突き刺した。
緑の怪人はまるで脱皮するかのように外殻を脱ぎ捨てると、中から赤色の怪人が出てきた。
「バ、カイザ、ニングロボワーバ、ザラニ」
そう言い残すと白い怪人は再び姿を消した。
追いかけている暇はない。大村は目の前に立っている両手が鉈のようになっている赤色の怪人と対峙し、再び戦闘を始めた。
しかし、赤い怪人の圧倒的な力の前に、彼は成す術もなく追い詰められていく。
ついに大村は地面に倒れ、怪人が馬乗りにまたがる。
もはやこれまでと思ったそのとき、乾いた爆音と共に怪人がわずかに後方へのけ反った。
それは瀕死の警官が怪人に向けて撃った拳銃の発砲音だった。
その隙を見逃さず、大村は立ち上がって怪人の顎にアッパーを決め、再び立ち上がった。
彼はよろめく怪人にさらに追い打ちをかけていく。
怪人は両腕でガードするも、大村のパンチは腕をすり抜けて怪人の顔面にクリーンヒットした。
大村の猛攻が続き、怪人は後ろに吹き飛び、大村も息を切らしながら地面に倒れた怪人に歩み寄った。
大村は右手の握りこぶしを怪人の頭上に掲げ、頭をたたき割った。
怪人が動かなくなったことを確認すると、大村はその場に座り込み、安堵の息を漏らした。
そこへデパート内にまだ残っていた人々がおそるおそる近づいてくる。
大村は彼らを見て無事であることをアピールするため、無理をして立ち上がると親指を立てた。
「ありがとう、本当にありがとう」
一人がそう言うと、堰を切ったように感謝の言葉が次々と上がる。
「是非お名前を、聞かせてはもらえませんか?」
その言葉に、大村は少しの沈黙の後に答える。
「明。俺は、寺島明だ」
それだけ言うと大村は応援の警察が来る前にデパートを後にした。
「妙な話っすよね、ホント。突然現れたバケモノとそれを退治する昔のヒーローのコスプレをした変わり者。何かつながりがあるとみて間違いないっすね」
刑事の佐藤がガムを噛みながらそう言った。
「それで、昔あのヒーローをやっていた俳優が行方不明っていうのは本当なのか?」
「えぇ、まぁ。確かだとは思いますけど。中身本人なんすかね?」
「いや、まさか。大村英光は今年で七十八歳だ。あんなに機敏で力強い動きは到底無理だろう。近頃は病気を患っていたらしいしな」
同僚の田端は煙草に火をつけながらそう答える。
「それにしても、子供のころ見ていたテレビが現実になるなんてなあ……」
田端は独り言のようにつぶやくと、天を仰いだ。
「とにかく、あのヒーローの拠点を探すのがよさそうっすね。今回はバイクで走っているのを見たって目撃情報が多数あるんで、Nシステムを利用すれば案外簡単に見つかるかもしれないっす」
「だな」
佐藤の提案に、田端も同意した。
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