第13話 厄介なこと
「厄介なことって…?」
ティニーが眉根を寄せたのを見て、ルーンは恐る恐る尋ねた。
「そもそも器が先に見つかるってことは、所有者が身につけていなかったことになる。器は所有者が身につけていないとどんどん繋がりが薄くなっていってしまうんだ。そうなると繋がりが薄まった器に他の人間が入り込むことができるようになる」
「………つまりどういうこと…?」
スティンガーが首を傾げたのを見て、ティニーはさらに分かりやすく言った。
「つまり、一つの器に対し、所有者が二人にも三人にもなるってことだ。もしアマラントが繋がりの弱まった器を見つけて複数人で所有し始めたら、武力の神の力も複数人分になるってことだな」
肌身離さず身につけられた器は所有者との繋がりも強いため一人しか所有権が与えられないが、離れた場所に放置された器は繋がりが弱まり、複数人に所有権が与えられるということらしい。
「あー、なるほどな。ずっと離れず大事にしてれば永遠に一途だけど、放っとかれたら浮気して三股四股かけ始めるよってことか」
「ま、まあそんな感じだ」
「分かった、とりあえず肌身離さず持っとくわ」
スティンガーはチャリチャリとネックレスのチェーンをいじりながらそう言った。
「まあ、アマラント側からしたら放置されてる器を見つける方が所有権も増えるしいいんだろうが、この世のどこにあるか分かったもんじゃないからな」
「だからとりあえず殺して所有権を移そうとしてるってわけかぁ…」
「ああ。実際殺された貴族たちの家も、強盗に押し入られたかのように荒らされているからな。殺して所有権が宙に浮いているうちに器を見つけてアマラント側が所有者になりたいんだろうが…。今のところ向こうもまだ見つけてはいないらしいな」
「つーかあんた、器の所有権がどうのとか繋がりがどうのとか、詳しすぎねえ?」
「そりゃあ自分の器で試したからな」
「ティニーさん所有者だったんですか!?」
「金の盾は俺が所有している」
さらっと言われたが、かなり重大な報告である。
「だから俺もいずれ命を狙われるだろうな」
「た、大変だなぁ…」
この分では、アマラントは器が見つかるまで貴族たちを殺し続けていくのではないだろうか。そんな疑問を、ティニーは一蹴した。
「元来貴族や王族は魔力量も多いし、強魔法であることが多い。それにレニーの一件で警戒をかなり強めているみたいだから、そんなに簡単にやられることはないだろう」
レニーの一件。この前の入学試験でルーンも巻き込まれたあの事件だ。結局犯人のアマラント組織員はまだ捕まっていない。
「…あの、レニーってあそこで殺されたんじゃないですよね?」
「ああ、別の現場だ。よく分かったな」
「ドサッていう物音を聞いたんで…。レニーを運んできた音だったんじゃないかと思ってたんです」
「…なるほどな。あれだけ流れてた血も水と血糊だったし、よく分からんがアマラントはレニーを1階で殺したように見せかけたかったらしい」
「……レニーは、なんで殺されたんですか」
そのルーンの問いに、ティニーは残った水を飲み干してから答えた。
「所有者だと思われたんだろう。レニーは取り巻きたちに家の武器庫を自慢していたらしいからな」
取り巻きとはおそらく男子Bたちのことだろう。
「ところでルーン。お前、Aの文字に見覚えはないか」
「え…?」
唐突に尋ねられたその質問に、ルーンは思わずピクリと肩を揺らした。見覚えがあるような気はしている。ただしどこで見たのか定かではないし、そもそも記憶違いの可能性も十分にある。
「あるような、ないような…」
そんなルーンの曖昧な返事にティニーが説明を求めようとしたとき、スティンガーが割って入った。
「ねえよ。オレとルーンは幼なじみだ。チビの頃なんてそれこそ四六時中一緒にいたし、オレが見てねぇんだからルーンだって見てねぇよ。多分クラスの誰かがふざけて描いた文字とか、看板とか見たんだろ」
「ある程度成長してから見たんじゃないのか」
「それだったらもっと鮮明に記憶に残ってんだろ。曖昧ってことは見たかもしれないのは幼少期。でもオレはそんなもん見た記憶ねぇからルーンも見てない。以上」
いらついたように言うスティンガーに、ルーンたちは呆気に取られるが、スティンガーがティニーをじっと睨むので、ティニーは仕方なく立ち上がった。
「分かった。お前がそう言うならそうなんだな?」
「だからそうだって言ってんだろ。早く帰れ」
「おいスティンガー、さすがに失礼だって…」
「ルーン、スティンガー。式は二日後だ。お前らだけじゃ頼りないからちゃんとイリシアと一緒に来るように。あと、同級生はお前らのほかに二人いるから仲良くな」
ティニーはルーンにグラスを返すと、さっさと山を降りて行った。
「──であるからして、わしは君たちのことを──」
いつの間にか目蓋を閉じていたルーンは慌てて目を開けた。カーマインの長話を子守唄代わりにして眠りについてしまうところだった。危ない危ない。
ふと隣に座るスティンガーを見れば、ティニーから頭にズビシッと手刀を入れられて叩き起こされているところだった。
「いってぇな…」
「神経図太すぎだろお前。もしくは無神経なのか?」
「話が長いんだから寝るだろフツー」
などとコソコソ言い合う声が聞こえてきて、ルーンは思わず苦笑する。
「あっ!!言い忘れておったが、ティニーくんが君たち一年生の担任になるから、言うことをよく聞くように!」
「本当ですか!?」
「はぁ!?まじかよ!!」
ルーンが歓喜の、スティンガーが嫌悪の眼差しをティニーに向ける。イリシアとジャスティン、そしていつの間にかしっかり起きていたコスモが暇なのか、というような視線を送っている。
「おれたち軍人は決して暇なわけじゃない。故に、ティニーがいない時はおれが副担任としてお前らを見てやる」
皇帝の横に現れたのは、ティニーと同い年くらいの男だった。暗い赤色の髪に切れ長の目、キュッと結ばれた口元。ティニーと似た堅物の雰囲気が感じ取れるが、ティニーより冷酷さを感じさせている。
「……なんかティニーさんと似てんね」
「似ているわけがないだろう!!やめろ!!おれはシクラ・バーミリオンだ!シクラ先生と呼べ!!」
ルーンたちは思った。
(同族嫌悪か……?)
担任、ティニー・クラウン。副担任、シクラ・バーミリオン。クラスメート、五人。
これからの学校生活を考え、ルーンはちょっと不安になるのであった。
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